「難しいながら感覚的に共有」影裏 aMacleanさんの映画レビュー(感想・評価)
難しいながら感覚的に共有
日本の映画らしい、映像と余韻が尾を引く。原作未読ですが、芥川賞を取ったとのことで、相応に深そう。
大友監督の表現が、洗練された和の様式美のイメージをたたえていて、作品を印象付ける。静かな日常のひとコマと、ボソっという会話。現代の話なのだけど、時代を超えた共通項みたいなものを、描いていると感じた。綾野剛主演のせいもあるのか、昨年公開の「楽園」と印象がダブった。
淡々とした展開で、冗長な感じはあるのだけど、自然の使い方が秀逸で、そのおかげで飽きは来なかった。風の音、雨の音、雷鳴、川のせせらぎ。それらが役者の演技の間を埋めて、茫漠とした物語に色を与えていた。
ストーリーは、よくよく考えると、かなりとんでもない人物(松田龍平演じる日浅)を描いているし、前半と後半の逆転劇はダイナミックではあるのだけど、ドラマチックな展開を徹底的に抑えていた。綾野剛演じる今野の、溢れても起伏に乏しい感情を軸に、自然の音だけを伴奏とした弾き語りのような作品に仕上げている。主旋律はあくまで静かで情緒深く、ところどころの人々のセリフは、あくまで添え物のような、ともすると雑音のようなパーカッションとなっている。その中でも、うろ覚えですが、タイトルになっている日浅の台詞「お前の見ているのは光のあたったほんの一部。人を見るときは裏っかわ、影の1番濃いところを見るんだよ」というところ。ここで、バチンと大きな音がした気がした。実際には音などしていないのだけど、そこがスイッチになり、その後日浅の実態が浮かび上がってくる。
とてもドラマチックな展開なのだけど、映像は盛り上げないし抑えを利かせ、ひたすら今野の混沌とした心情を追う。なかなか難しい演出ですよね。綾野節でそれに応えていて、この辺りは見所だろう。
といったところで、さて、序盤の綾野剛のサービスショットは、意味あったのだろうか。耽美的にはじめたかったのかな。
いろんな部分で、よくわからないところはあるけど、感じるところのある作品です。