「彼ら2人にしか演じられない役」影裏 さくらんさんの映画レビュー(感想・評価)
彼ら2人にしか演じられない役
この芥川賞受賞の原作を読んだ時、これをどう映画化するのかと疑問に思った。特に日浅が消えたこと以外にこれといった展開がないからだ。単調な淡々とした作品になってしまうのではと思った。
実際、淡々とはしていた。ただ、役者陣の個人技はさすがだった。松田龍平の感情があまり出ない表情、綾野剛の自信なさげな猫背の背中、筒井真理子の必ずどこにでもいるパートさん、中村倫也の存在感、目の動きだったり口元だったり、台詞の一つ一つに彼らの思いが表現されていたと思う。
また、芦澤さんことカメラウーマンの視点が、非常に綾野剛ファンを喜ばせる、エロスを極めたカメラワークをされているのでそこも見所の1つだと思う。
3.11の震災もからんでいるので、大切な人、家族や恋人、友人が突然、目の前からいなくなってしまうことが本当にあること。そして、岩手のたくさんの美しい自然が溢れていたが、その自然が災害が起きると一気に脅威に変わること、これも影の部分であろう。
日浅は時々、人生わかってるような、一見深そうな言葉を言う。屍の上に生きてるとか人間の1番影の濃い部分を見んだよとか、今野だって彼を掴めきれなかった。結局、作品を観ても最後まで彼を何一つ理解できない。彼はどういう人生を歩んできたのか、何をしたかったのか…
そう考えると、人間は表に見せてる部分とは違う裏の部分があって、今野にとっては同性愛者ということなんだろうけど、皆そうやって何かを抱えて生きているということなのか。
作者の沼田さんにこの作品に込めた思いを聞いてみたいものである。
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