「あれ?上巻ってこんなに面白かった?」機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ Equinoxさんの映画レビュー(感想・評価)
あれ?上巻ってこんなに面白かった?
原作である富野さんの小説は過去に何度も読み返しているのですが、正直言って余り面白いとは思ったことはありませんでした。
下巻のラストの衝撃はあるもののそこに至る過程は泥臭く冗長な印象しか持てませんでした。
富野さんの何とも言えない政治観が随所で長々と語られ、読んでいて恥ずかしくなる様な独特の擬音表現とかも相まって、「微妙」というのが小説に対する印象でした。
しかし、それが映画化されたらこんなにも面白くなるとは夢にも思いませんでした。
しかも原作を改変している箇所は少なく、基本的には原作を踏襲しています。
台詞も印象的な台詞はほぼ原作通りです。
そういう意味では、私が理解できていなかっただけで原作が偉大だったということと、映像化に際しての取捨選択が完璧だったのでしょう。
兎にも角にも、小説原作のアニメ化という点において100点しか付けようがないくらい完璧な映像化だったんじゃないかと思います。
アニメとして観た時の絵の綺麗さ、場面にあった音楽や音響、そういった良さもさることながら、原作からの取捨選択という点は白眉と言えましょう。
映画としての点でも臨場感の演出は秀逸で、何度かその場にいる様な錯覚を覚えました。
特にホテルでハサウェイが一息ついてベッドに横たわる場面では臨場感と見せ方の緩急も相まってか実際自分が海外旅行中にホテルに戻って一息ついた時の感覚を思い出し、一瞬ですが自分が何処にいるのかわからなくなりました。
次に、色々言われている夜戦時の画面の暗さですが、個人的にはこの暗さが正解だと思いました。
ニュース映像とかで観る海外の夜戦の映像って暗い中で弾道と爆発だけが明るく映っているじゃないですか、まさにそれを観ている様な感覚。
モビルスーツという巨人が頭上で大暴れしている時に地上にいる人からしたら何が何だかわからないはずで、恐らく人間ドラマに注力しているが故に視点や視聴時の感覚としてもその様に描かれているのではないでしょうか。
実際こういうのに巻き込まれたとしたら、ただただわけもわからず逃げなければならないという思いになると思うんです。まさにそれを疑似体験出来たので私は素晴らしいと思いました。
玩具を売る側からしたらモビルスーツがよく見えないのはマイナス要素でしかないと思うんですが、演出を優先する攻めた決断だったのかななんて勝手に思いました。
実際どういう意図で暗くしたのかはわかりませんが。
同様に無駄に水増しされた戦闘シーンも無く、あくまでも原作の範囲というのが今までのガンダムの映像化と違って凄くよかったです。
やや少ないかなと思われるかもしれない分量ではありつつ、きちんとした「映画」としてガンダムに向き合っている感じがしました。
UCなんかは、原作に登場しない戦闘シーンが足され、このモビルスーツ出したらおまえら喜ぶでしょ?みたいな意図が透けて見えてイヤでした。
その観点でいうと、序盤のギャプランは原作に出てこないのですが、私はテロリストがハウンゼンに乗り込む必然性が薄れるのでそこは蛇足だったと思います。MSなら「撃墜されたくなければ金を出せ」も出来るはずなので。
長くなってしまいましたが、細かい点では色々あるものの、全体としては非常にクオリティが高い仕上がりになっていると思います。
中巻下巻では映像化に際して割と際どいと推察されるシーンもありますが、このレベルを維持してくれることを切に願います。
と、ここまでは原作小説を何度も読んだ初老の感想なのですが、全くガンダムのことを何もわからない人が観た時に単体の映画としてどうか、という観点ではやや説明不足かなとは思います。
三部作なのでこの後徐々に描かれて見えてくる部分もあり、原作でもぼかされたまま終わる部分もあり、単独で全て完結しないと許せない人には合わないかもしれません。