「(6/30追記)あの頃、少年だった僕たちはいつの間にかおじさんになっていた。」機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ 侍味さんの映画レビュー(感想・評価)
(6/30追記)あの頃、少年だった僕たちはいつの間にかおじさんになっていた。
小学生高学年になり、ようやく親が子供だけでの映画鑑賞を許してくれて、仲の良い4人組でバスに乗り、人で賑わう繁華街で「逆襲のシャア」を観に行った。
正義は悪を打ちのめす。
小学生にはそれが当たり前だった。
アムロとシャアはお互いを否定しながらアクシズと共に星になり、消えていった。
そしていつの間にかおじさんになった僕は、その頃の少年だった自分がフラッシュバックしながら劇場で大人になったハサウェイと対面した。
冒頭は既にネットで観たものの、改めて劇場のスクリーンと音響で観ると良さが引きたつ。
細かいディティール、美しい背景、そして宇宙。
逆襲のシャアの頃はなんとなくシャアがカッコいい演説をしているとは思いながらも、その内容が理解できていなかった自分もマフティの理念に否定して同意する。
おじさんになった僕たちはいつの間にか正義というものの価値観が歪んでいてそれに気付かされる。
何処かで読んだ気がするのが、富野由悠季がエヴァに並々ならぬ対抗心を持っていてその想いが細部にまで浸透している。
さながら、宮崎駿のこだわりの様に今作は空の描写が美しい。
後半はその美しさにひたすら酔いしれて、クスィーガンダムとの出会いからのハサウェイの戦いは、さながらクェスと再会できた彼が最後の場所を見つけたかの様で、どことなく幸せそうでもあり、そしてどこか悲しい。
そこからが、怒涛のペネローペ戦。
既に明らかな2体の造形は2次元の枠を超えて、スクリーンの中を飛び回る。
腹に響く薄くない弾幕の音と共にペネローペは沈む。
そして船で、未来を見つめるハサウェイ。
あの頃少年だった人達が、それぞれの人生を通して、富野由悠季の世界を再構築した世界。
先に公開されたナラティブとは比較にならないくらい繊細であり、そして大人な映画だった。
勿論、複数作に分かれると知っていての鑑賞だったので、あの終わり方は希望に満ちていて悪くない。
総じて素晴らしい。
久しぶりに再会した旧友と、あの時の後の話を交わしたい、そんな映画だった。
ガンダムという、ステレオタイプな素材をうまく仕上げた素晴らしい映画だと思う。
p.s. 冒頭の小学生時代に一緒に映画に行った山田君が路地裏にジュースを一人で買いに行って、一瞬でカツアゲ食らって全財産なくなり、彼のバス代をみんなでカンパしました。
ちくしょう。
p.s.のおまけ。
刑事警察機構でハサウェイを尋問するメガネの方、実は逆襲のシャアでハサウェイ役だった方です。このシーン実は熱い。
(6/30追記)
上映初日にBlu-ray Discを購入し10回以上繰り返し鑑賞。加えて、劇場も2回足を運び、出演者のトーク、並びに撮影、演出スタッフの方のトークも鑑賞した上で再度追記。(僕には珍しい事)
まず、劇中が全体的に暗いという感想が散見されましたが、これは劇場側の調整に依るところが大きいです。
自宅での4k有機EL55インチテレビで鑑賞したところ、暗さは感じるものの、細部の書き込み、ディティール描写、が素晴らしい事を再認識した。
物語中盤でのホテルからの逃避で公園で抱き合い、奥でメッサーの火花が散るとても幻想的なあのシーン、エフェクト担当の金子さんが意地で全部描いた(CGではなく手書き)という話に衝撃を受けた。
今作はペーネロペー並びにΞガンダム等CGを効果的に使っているものの、印象的なシーンはアナログで職人の魂の結晶です。あのシーンは会話も少ないものの、抱きしめる2人の手の描写も相まってとても美しい。
今作はガンダムという世界観をベースに、その世界で育った作り手達の、新次元のアニメーション実験作としてもとても意味のあるものだと思う。
暗い暗いって仰る方は、大人しくアンパンマンでも観ていれば良いと思う。(鬼