「多くの人に見てもらいたい」Fukushima 50 Ellさんの映画レビュー(感想・評価)
多くの人に見てもらいたい
私がこの映画につける★の数は、映画そのものに対する評価ではなく、この映画を通して見えてくる、当時福島で戦っていた人たちへの感謝の気持ちです。
実話を基にしているといっても、変なお涙頂戴やおおげさな演出でしらけてしまうのではないか。変な脚色がされているのではないか。色々な不安はあったものの、原作は一応ノンフィクション。「当時、決死の思いで原発事故という未曾有の危機から逃げずに立ち向かった人達のことを、もっと知ることができるかもしれない」という思いで見に行きました。
予算のしょぼさがところどころに見え隠れし、その都度現実に引き戻されてしまうものの、ドキュメンタリーのような奇妙な感触があり、見知った役者さんたちの顔の後ろに、別の誰かが確かに見える。ホラー映画ではないのに、結末がわかっているのに、ただ恐ろしく、不安に押しつぶされそうになる。何も出来ず、ただ傍観するしかない観客である自分にもどかしくなる。テレビやパソコンの前で事態を見守ることしかできず、手を組んで祈るしかできなかった記憶が呼び覚まされ、気がつくと手に爪を立てていた。記憶による補完があるものの、映画は当時の緊迫した空気を見事に再現していると思う。
映画を見終えて胸に残るのは、ただただ深い感謝だけである。
この映画が見せる出来事は、ヒーロー物のフィクションではない。ハッピーエンドは必ずしも用意されていない、そんな厳しい現実の中で、スーパーヒーローでもない普通の人たちがギリギリのところで命をかけて頑張ってくれたのである。
月日は流れ、人の記憶は薄れていくけれど、忘れてはいけないことがある。知らないままでいてはいけないことがある。
つまらない、ありふれた日常がどれほどかけがえのないものなのか、忘れてはいけないのだ。
当時の記憶があるわたしには、この映画を単体では評価できません。
ですが、この映画の目標はきっちりと達成できていると思います。
映画もリアルもすべて含めて、星を捧げます。
※ちなみに、今は新型コロナウィルス禍の真っ只中。劇場はほとんど貸しきり状態でした。
多くの人に見てもらいたい映画なのに、このままではひっそりと上映期間が終わってしまうかもしれないと思うと、残念でしかたありません。