「「貴様ッ!俺の目を盗みやがったな!!」」ANON アノン いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
「貴様ッ!俺の目を盗みやがったな!!」
誰もが思うことと断言するがハリウッド版攻殻機動隊よりも本作の方がイメージとして寄っていると感じざるを得ない作品である。
コンセプトもそうだし、テーマ、そして俳優でさえも意識しなくてもオーバーラップしてくる。今作を企画上映ではなく、きちんと日本配給されていればもっと注目されたのではないだろうか。と同時にもしかしたらパクリ疑惑で騒がれるのだろうか?否、あくまでも“ガタカ”を撮った監督作なのだから、逆に喜ばれるのではないかと思うのだが、ビジネスとなると甘いのかな?w
映像のカラーリングもグレーが多く、かなりクールな見せ方である。アバンタイトルの“パラケルスス”の引用も、そのいかがわしさを孕んだテーマを紐解くのにマッチしていてニヤッとさせる。俳優陣も、最近鑑賞した“First Reformed”の自殺した夫の妻役であった女優が、打って変わって今作はクールビューティを装い華麗に演じている。そしてキチンとサービスショットも盛り込まれているのも素晴らしい。プロポーションが良いのだから出し惜しみせず裸体はみせるべきであり、今作に盛り込まれ様は歓迎である。
FPSとしてのカットを盛り込みながら、スリリングな演出が描かれている。データ群を表現する分子配列のようなCG等も今のSF表現として洗練されていてファッショナブルである。
ディストピア作品としてのテーマ性も、目に映っていたモノは全て記憶されている前提の世界に於いて、その映像自体に細工を施す天才ハッカーの出現で秩序が崩壊してしまうという、徹底した管理社会は実は綻びと表裏一体である哲学的なベースの上で構成されていて興味深い。
勿論、ストーリーに於いての細部説明や世界観を縛るようなナレーションが無いので、ここに飲み込みにくさがあるのは否めない。なので、結局真相として、その改竄できる天才ハッカーの仕業とされていた殺人の部分は、刑事の部下が行なっていたことという事実のみが分るだけで、その理由の曖昧さは腑に落ちないことに頭が支配されてしまう。しかし、今作品はそういう緻密な構成に心を持って行かれる事自体間違っているのではないかと気付く。なにせ、作品自体が真相ならざる語り部により進行しているのだから、どこからが本当でどこからが改竄なのか鑑賞者でさえ五里霧中なのだから。いくら管理が厳しくても、アノニマスは必ず現れ、そしてそいつは敵か味方かも分らない。雲を掴むようなそんな頼りなさ自体が作品に込められているのであろう。そんな得体の知らない作品が在っても良いし、それ自体を否定することは絶対に避けねばならない。見方をズラす事が重要なのである。