「マーベル映画はプロレス。シャマランのリアルヒーローは総合格闘技。」ミスター・ガラス Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
マーベル映画はプロレス。シャマランのリアルヒーローは総合格闘技。
いまだに"「シックス・センス」の~"、という修飾が消えない M・ナイト・シャマラン監督。そのシャマラン監督がまさに20年前「シックス・センス」(1999)と同時期に制作した「アンブレイカブル」(2000)の完結編である。
「アンブレイカブル」はシャマランの描くアメコミヒーロー誕生のリアルドラマだったが、当時、作品評価はあまり高くなかった。そしてその信念は20年後まで貫かれることとなった。
当時、"アメコミヒーロー像"の意味合いは今とは大きく違っていた。スーパーマンやスパイダーマン、バットマンにしても、ヒーローは無敵な能力を持った正義の味方でいるだけでよかった。
それに対してシャマラン監督は、"もし本当に無敵な男がいたら・・・"という仮説をリアルに追求した。現実に、無敵の能力者がいたら怖いし、みずから正義を訴えたとしても、周りの人間は簡単に信じるだろうか? そんなリアリティが「アンブレイカブル」だったのである。
男は自分の能力に気づかず、やがてそれに覚醒していく。そして、そんな観客にはいまいち伝わらなかった。
しかし今や、MARVELやDCコミックスの実写映画が次々とシリーズ化され、そのヒーローたちは活躍するだけでなく、自分の能力と人々の違いに悩む。その能力ゆえに人間によって差別・抑圧されたり、人間や地球を救うことの意味合いに疑問を持つことなどが描かれている。
悩めるヒーロー像は、クリストファー・ノーラン監督の「ダークナイト」(2008)によってメジャー化された。つまりシャマランの「アンブレイカブル」(2000)は、あまりにも早すぎた。
最新作タイトルの"ミスター・ガラス"とは、「アンブレイカブル」に登場するサミュエル・L・ジャクソン演じる"イライジャ"のことである。また「アンブレイカブル」で登場する不死身のデヴィッドは、当時、人気も無敵だったブルース・ウィリスが演じた。
イライジャは骨形成不全症という先天性の難病を患い、些細なことでも骨折してしまうほどの脆弱な身体の持ち主。そして"ミスター・ガラス"とよばれた。イライジャは自らの脆弱性ゆえに、無敵のアメコミヒーローに憧れ、ホンモノの完全無欠ヒーローを求めて、デヴィッドを見つけ出した。
また、さらに今回の「ミスター・ガラス」にたどり着く前に、シャマランは「スプリット」(2017)で、もうひとりの無敵な能力者を創っている。
「スプリット」は24の人格を持つ、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)の男・ケビンを主役にし、彼が引き起こす女子学生監禁犯罪を描いたスリラーである。女性や子供を含む、24もの人格を見事に演じきった、ジェームズ・マカボイが大絶賛された作品だ。
一見すると、単体で完結しているような「スプリット」だったが、そのエンディングで、デヴィッド役のブルース・ウィリスの出演シーンがある。つまり本作への前振りが行われているのだった。
不死身の肉体を持つデヴィッドと、デヴィッドを見いだしたイライジャ、そしてケビンの多重人格のひとつである"ビースト"が、激しく対立する。
そのとき、普通の人間たちはどう対処するか・・・もちろん"精神病院"対応である。3人を監禁して、精神科医のステイプルが、すべて彼らの妄想であることを証明しようとする。とても自然な判断である。
しかし、能力者が本当にいたら・・・という仮定を描くのが、この映画のリアリティなのだ。正義のヒーローがヴィラン(悪)に勝利して終わったりはしない。
3人の能力者が、ふつうの人間たちによって翻弄される。
本作品の思想はある意味で、「X-men」シリーズの先取りでもあった。むしろシャマランは意図的にそうしたのかもしれないが、24の人格を持つケビンを演じるジェームズ・マカボイは、「X-Men」シリーズでやはり能力者チャールズ(プロフェッサーX)を演じている。
また「アンブレイカブル」からはじまる3部作は、流行りのアメコミシリーズが展開するスピンオフ作品や、"正義 VS 悪"の構図を揶揄している。
本作がリアルなスリラーであることには間違いない。しかし面白いかといわれると、それは別の問題である。
アメコミ映画の魅力は、プロレス的な興行演出なのである。アメコミには、悩めるバットマンはいるものの、一方でカッコいいバットモービルで駆け抜ける派手なシーンに興奮するのである。ちょっと間抜けで勝てそうなヴィランとも戦う。そんな夢にフィギュアも集めたくなる。
「アンブレイカブル」の目指すものは違うと分かっていても、本作のエンディングで強烈な現実がさらに浮き彫りになる。いわゆるアメコミ映画が"プロレス"だとすると、本シリーズは"総合格闘技"なのである。
無敵なはずのヒーローの最後はあっけなく寂しい。そんな現実、ほんとは見たくない。
(2019/1/18/TOHOシネマズ日本橋/シネスコ/字幕:表示なし)