「美しい映像と切ないドラマに涙出来る良作」殺さない彼と死なない彼女 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)
美しい映像と切ないドラマに涙出来る良作
口の悪い留年生の男子とリストカットを繰り返す同級生女子の恋。並行して更に二人の女子の恋模様と恋模様を狙う殺人鬼?の不穏な存在を散りばめた複数の群像ドラマ。
おそらく意図的に演出されているが、棒読み寸前の台詞まわしで、進行するおかしみのある会話が、距離の縮まる男女の物語を紡ぐ。
時系列少し前後させた展開の脚本も練られており、更に別の二人の女子の恋と人間模様が、対比的に描かれている。
自然光を生かして白いハレーションを多用する画面や女優の淡いクローズアップの美しい撮影。
夕景などの光の美しい時間に撮影した絵も結構多くて凝っている印象。
全体的に撮影や照明がとても素晴らしい。
主演の桜井日奈子は、劇中ではブス扱い?されているリストカット女子高生を体現して、ちょっと下ぶくれ気味な面持ちで、いわゆるぶさかわな感じだか、後半からの表情の変化がキリッとして素晴らしい。
好きな男子に猛アタックをかける撫子を演じる箭内夢菜は、役名から反映された綺麗な言葉使いと折り目正しい仕草で今時とは、思えない浮世絵離れした女子高生を好演。
普通の男なら、この子から告白されたら有頂天になるのに相手の塩対応が可笑しい。
男好きな親友のキャピ子に翻弄されるメガネ女子の地味子を演じる恒松祐里も良い。
劇中でメガメを取らないが、とても大人系美人で、将来的に一番伸びるのでは?と思う。(妄想です。)
主演の間宮祥太朗も実年齢が20代半ばなので、最初の登場場面から落ち着いて高校生に見えない苦しさもあるが・・そういえば留年生の設定なのでそれを踏まえていると納得。(何年留年?)
クールな彼が、鹿野の前で慌てる場面などもチャーミングに演じていて好演。
監督と脚本の小林啓一は、過去にハロプロの超有名なPVを手掛けている人だが、PV上がりの監督に多々ある美しい映像だけで、ドラマは空疎な物に陥らず、キャラの心情もきちんと演出して長回しの使い方も上手い。過去作も追って観たいと感じさせる。
後半の驚きの展開や切ないドラマに感情を揺さぶられるし、若者向けアイドル映画に、必要なある年齢帯の俳優を綺麗に撮っている映画としても良作。
ただ、これらのドラマ全てが必要だったのかは、123分の上映時間を考えるともう少しスリムに整理されてもいいのでは?と若干感じたが、映画が気に入って再見すると気にならないかも。
何年か前に映画館の上映スケジュール都合で、大手の若者向け日本映画は120分前後が望ましいとされている事情があると聞いた事があるので、この作品もそれにピッタリ当てはまるが。