劇場公開日 2019年11月15日

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「お前、マジで死にたいの? じゃあ、俺が殺してやるよ。」殺さない彼と死なない彼女 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5お前、マジで死にたいの? じゃあ、俺が殺してやるよ。

2019年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

数組のカップルや友達の群像劇。詩の朗読のようなセリフ回しもある。

「殺す」
「死んでやる」
「死ねねえくせに」
「殺せねえくせに」
軽々とそんな言葉を口にする今どきの若者たちを、僕は普段から苦々しく思っている。そんなタイトルだし、間宮祥太郎は好きだが女優はどちらかと言えば嫌いだし、高校生の恋愛映画だろうし、なのにこの高評価はどこに理由が?と興味が湧いて観てみたが、実に純心さに溢れた映画だった。
口にする言葉とは裏腹の無垢な感情。むしろ、それを守ろうとするがゆえの鎧のような荒い言動。他人の評価なんてどうでもいいじゃない?自分はどうしたいの?そんなメッセージが言外からひしひしと伝わってきて涙があふれてきた。ようやく二人に寄り添えて、こっちも鎧を脱いできたところであの結末。そりゃフラグはあったけど、そこかあ!って苦笑いしながらまた涙があふれてきた。公園の桜並木のその時、ずっとそよ風のような映像と日常の雑踏にまぎれた音源に包まれていたことに、改めて優しさをかみしめた。そこで「ねえ、未来の話をしましょう」って言うなんて、反則級のボディブロー。「死んでやる」って言ってた君がそれを言うか?と。今更だけどそれに気付いた君が言うか?と。そのセリフをそんなやわらかな笑顔で言うか?と。その瞬間、僕の脳裏にも小坂、いや間宮祥太郎の不貞腐れた横顔が浮かんできた。

ほかの二組のエピソードもいい。エピソード同士のからみ合いもしつこくなく、思い悩む本人ほどには他人からは気にかけてもらえない不満や葛藤が軽やかに描かれている。素敵な涙を流せる映画だ。

死ぬだ、殺すだ、言いあってた二人が、打ち解け合った頃に交わす会話を思い出す。
「未来の話をしないか?」
「明日だって未来よ。もう始まっているわ、未来が。」

栗太郎