「ストーリーの軸は王道的で楽しめる」きみと、波にのれたら といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
ストーリーの軸は王道的で楽しめる
映画の話題をする某Youtuberさんが「あまり話題にならなかったけど、天気の子と同じくらい好き」と語っていたので、気になって鑑賞しました。映画館で予告編映像を観たことがあるくらいの事前知識です。監督の湯浅さんは、私が一番好きなテレビアニメ「四畳半神話大系」の監督さんでもありますので、非常に期待しておりました。
この映画を観た評価としては「奇抜なスパイスが効いてて人を選びそうではあるけど、中身は王道的なラブストーリーに仕上がっている」といった感じです。
大学進学を機に海に近いマンションに引越し、趣味であるサーフィンに没頭する主人公のひな子。自宅マンションの火事をきっかけに消防士の港と仲良くなり、二人は次第に親密な関係になっていく。そんなある日、海で溺れた人を助けるために海に飛び込んだ港はそのまま帰らぬ人に。ショックに打ちひしがれるひな子であったが、二人の思い出の歌を口ずさむと水の中に港が現れることに気付く。幻覚か幽霊か。それでもひな子は再び港に会えることを喜ぶのだった。
「亡くなった恋人が主人公にだけ見える形で蘇る」というストーリーは古今東西使い古されたプロットのように感じますが、「水の中にだけ現れる」というのは新鮮に感じました。そこにいるのに触れることもできないもどかしさもありつつ、常に一緒にいることのできるという点においてはなかなか上手い発想です。また、恋愛映画において私が重要視しているのは「恋愛や別れを通じて登場人物たちがどのように成長するのか」ということなんですが、この映画においては港との死別を通じて、主人公のひな子・港の妹の洋子・港の同僚の山葵の成長がしっかりと描かれています。特に、港の死でふさぎこんでいたひな子に対し、港の死を乗り越えて前へ進もうとする洋子と山葵の成長が対比的に描かれているシーンが個人的にはグッとくるものがありました。恋愛もの映画としては本当に素晴らしい作品だと思います。
ただ、不満点が無いわけでもないんです。
まずは声優。主要キャストの4人はともにプロの声優ではなく俳優です。決して演技が下手というわけではありませんが、特別上手いというわけでもありません。ところどころに、「ん?」と引っかかるような演技があったのは否めません。
次に映像演出。湯浅監督のアニメ映画には、独特の映像演出が使われることが多いです。よく言えばディズニー映画のようなファンタジー的な演出であったり、パースを敢えて狂わせた作画を多用したり。この映画にもそのような独特の映像演出が各所に見られました。特に主人公のひな子が「歌を口ずさむと水中に港が現れる」と気付いたあたりから過剰なまでの映像演出が見られました。普段から湯浅監督の作品を見慣れている私から観ても「ちょっとくどいな」と感じたくらいだったので、かなり観る人を選ぶ演出だと思います。
最後に、前半にあったひな子と港のラブラブ描写が長くてくどい。「俺は今何を見せられているんだ」と思うくらい長い。あそこはもう少し尺を短くしても良かったような気もします。予告動画とかを見てデート映画として観に来たカップルに向けた描写なのかもしれませんが、男一人で自室で観ているのは正直きつかったですね。
しかし総合的に観れば、ストーリーや脚本や作画ともに非常にクオリティも高く、楽しめる映画でした。面白かったのでオススメです。