「シンプルで誰もが共感するラブ・ファンタジー」きみと、波にのれたら Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
シンプルで誰もが共感するラブ・ファンタジー
もしかすると、これは大化けするかもしれない。誰もが共感するシンプルなラブストーリーだ。
湯浅政明監督のオリジナル最新作。「夜明け告げるルーのうた」(2017)からタッグを組む、脚本・吉田玲子との共同作業で、さらに"大衆ウケ"のツボを心得ていくのが凄い。
吉田玲子は京都アニメーションの作品群や、ガルパンなどの脚本も手掛ける。「映画 聲の形」(2016)をはじめ、登場人物たちの心の動きを繊細にとらえる。
そして、川栄李奈のまさに面目躍如。主人公の向水ひな子の声(CV)を演じているが、ひとつひとつの出演作で評価を上げてきた彼女の実力が楽しめる。
サーフィンのために海辺の町に引っ越ししてきたばかりの向水ひな子(CV:川栄李奈)は、いきなり火災事故に巻き込まれる。ひな子は、救助で出会った消防士の雛罌粟 港(ひなげし みなと/CV:片寄涼太)と出会い、恋に落ちる。
印象的なのは、なんといっても映画が終わっても頭のなかでグルグルとリピートする主題歌のサビ。
♪That's Right
目を開けたその瞬間
始まるよBrand New Story~
これが劇中でもストーリーの重要な鍵を握る。主人公の港とひな子にとって思い出の曲となっている。
この楽曲「Brand New Story」は、港を演じる(CV)片寄涼太が所属する、GENERATIONS from EXILE TRIBEのだ。言うまでもなく映画に関係なく単独でもヒット確実だが、映画がヒットすれば相乗効果が期待できる。
付き合い始めた、港とひな子が2人でふざけながら歌う、「Brand New Story」が印象的だ。片寄涼太が上手いのは当たり前として、川栄李奈も元AKBメンバーだ。笑いながら歌うという、サブテイク的と思われるものを使っているのがいい。
そんな恋愛絶頂期、海で救助活動中の港が命を落としてしまう・・・ここまでは予告PVでも明らかになっている。
恋人の死から立ち直れないひな子は、サーフィンはおろか、海すら見られなくなってしまった。そんなある日、コップの水に、港が現れる。
どうやら彼女が2人の思い出の歌を口ずさむと、水のある場所に、港が現れることが分かる。
ここからは得意の湯浅ファンタジーである。
本作はいくつものモチーフとなる映画を想起させられる。どうやら港とひな子の水中でのシーンは「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017)が企画の原点になっているのではないだろうかと思う。
また、生者と死者のラブストーリー設定や、片想いの山葵を加えた三角関係は、「ゴースト/ニューヨークの幻」(1990)っぽい。さらにクライマックスでタワービルの火事を消化する水の発想は、まるで「タワーリング・インフェルノ」(1974)である。
一方で、千葉県の景勝地、デートスポットなどがたくさんが出てくるのもミソ。
なかでも、千葉ポートタワーでのクリスマスデートは重要。恋人同士が気持ちを誓いあう南京錠に願掛けする。
サーフィンをするのは、"銚子の屛風ヶ浦"、"九十九里の釣ヶ崎海岸"。そして港とひな子の2人が夕日の中でキスをする、原岡海岸の"岡本桟橋"も木製の桟橋として有名。
これでまたアニメの聖地巡礼が始まるに違いない。最近は「翔んで埼玉」が話題だったが、やっぱり埼玉県の自虐は、千葉県の"海"には敵わない。
(2019/6/21/TOHOシネマズ新宿/ビスタ)