「重苦しい閉塞感の中でも生きる事を貪り食う作品です。」岬の兄妹 マツマルさんの映画レビュー(感想・評価)
重苦しい閉塞感の中でも生きる事を貪り食う作品です。
なんとなく興味があったので鑑賞しましたw
で、感想はと言うと…キツい。
正直キツいです。
最初は「マムシの兄弟」のタイトルからの引用かなと軽く考えてましたが、やられました。
ガツンと食らわされた様な衝撃です。
一言で底辺とかで片付けられないのですが、いろんな倫理観とか価値観とか、人間の在り方や尺度。社会で生きる定義や正義感が揺さぶられると言うか、溶ける感じがします。
陳腐でもハッピーエンドが好きなのに、果てしなく重くて、鑑賞後、希望に溢れる明るい作品が観たくなりました。
他の人も書いてましたが「万引き家族」が物凄くソフトでハートウォーミングに思えますw
また、今から半世紀も前なら、まだあり得た表現であっても、今のご時世でここまでやるか?と言う感じ。
放送禁止用語もきわどい表現もバンバンで人によっては気分が優れなくなる感じになるんではないでしょうか?
ですが、真理子役の和田光沙さんのまさしく身体を張った体当たりの演技をされてます。
和田光沙さん。ちょっと…いや、結構気になると言うか、引っかかる女優さんです。
そう意味では最近では珍しい、昭和テイストのド硬派のインディペンデントな作品ですw
とにかく、この兄妹の生き方が生々しいと言うか、重い。もうやりきれない感じが満載。
足に障害があって、仕事もクビになり、自閉症の妹を抱えての生活にのし掛かる重圧と言うか、閉塞感はハンパでないのは分かりますが、生きる為に自分の妹に売春の手引きをする悪循環。
しょうがないのかなぁと言う気持ちが何処かにあってもどうしょうもない閉塞感や罪悪感が満載。
良夫と真理子に置かれた境遇は与えられた僅かな空間の中での数少ない選択肢しかなかったから、その中で出来る事を選んだ選んだだけなので、当人達にはそれしかななかったし、それを選んで何が悪い?となる訳です。
これは、選択肢が数多くある者には分からない心境ではないでしょうか?
キッツい場面だけでなく、笑える所もあるし、ちょっとずつ生活が出来る様になってからお日様の光や花火なんかに束の間ホッとします。
ラストの終わり方は個人的には少し理解が出来なかったかな。
子供を堕して、仕事にありつけても、また再び繰り返す様にも思えるし、真理子が兄の行動に見限った様にも思えるし、全てを終わりにする様に達観した様にも思える。
いろんな事を考えさせられますが、やっぱり重いなぁw
この作品を観て、いろんな事を考えたりすると思います。
ただ、自分の置かれた境遇や立場に感謝して、反教師的に捉えると言う言葉でなく、誰にでもあり得る事、明日は我が身的に考えた時にどう考え、どう生きるかを強烈に叩き込んでくるかと思います。
正直、あんまりお薦めはしませんし、観る人を選ぶ作品でもあります。
今は再び観たい気持ちにはなりませんがw、なんとなく野村芳太郎監督の「鬼畜」や今村昌平監督の「楢山節考」を思い出しました。
…あっ!どっちも緒形拳さん主演だw
いろんな事を観る側に叩き込んできて、重苦しい閉塞感の中でも生きる事を貪り食う。
鑑賞後も心の中の襞にへばりつく様に印象と感想と余韻が生々しく残る。
そんな稀有な作品でもあります。