「居場所」バーナデット ママは行方不明 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
居場所
熱演だった。
人それぞれに抱えてるものはあって、意識せずに降り積もるものもあり、生きづらさってのは結局は自分らしさを犠牲にしてるからこそ生まれるものなのかもしれないと思う。
彼女は天才的な建築家でありアーティストであるのだけれど、ある時期からそれを放棄し違う幸せを見出す。
子供を育てる母であり、その子供は4回もの流産を経てようやく授かった娘らしい。
おそらく子育てには一切の疑問も抱かず懸命に向き合ったのだと思う。社会的に成功している夫もいるし、とても穏やかな人物のようだ。
なのだが、娘の成長につれ社会的な煩わしさに付き合わざるを得なくなっていく。
自分の価値観だけで判断しにくい状況にもなる。
面白いのはセラピストの存在だ。
生来、人付き合いを苦手とする彼女は、度重なるトラブルで夫から不信感を抱かれ、入院を促される。
観客は彼女を見てるので、セラピストが断定する症状にこそ疑問を抱く。
既存の枠に嵌めようとする。
何かレッテルを貼りつけマニュアルを強制しようとする。
セラピストは専門家であるから、その言葉の信憑性は夫にも周囲にも影響を及ぼす。
とても、危険な行為だと思うけど、それが蔓延してる社会なのは間違いない。
どんな話しになっていくのかと溜息もでるのだけれど、その窮屈な世界から飛び出した彼女は魅力的だった。
デジタルデトックスなんて言葉があるけど、以降の彼女はまさにソレで、人間関係ごとデトックスしてるようで南極って場所がまたうってつけだった。
非日常が過ぎる。
日常の肩書きなどはクソの役にも立たず、各々が役割を与えられ協力していかないと生活できない。
そこにいる彼女はとても人付き合いが苦手なようには見えず、自分の好奇心に向き合えたようにも見える。
シンプルな生活だからこそ、浮き彫りになっていくものがあるかのように。
そして、かなり大胆な行動力も発揮する。
頭で考えてるだけじゃ、辿り着けないとこもある。
南極点に行く許可が降り、電話口で自分のやりたい事を捲し立てる彼女は生き生きしてた。
家族の許可を得ないと行けないと断言する彼女は頼もしく、その前にあった娘の台詞が頭を過ぎる。
「ママは私と離れるなんて事しない」みたいな事だったかな。羨ましいくらいの信頼関係だ。
歪んでいく妻と向き合う家族の再生の話になるのかと思った中盤とはうって変わり、個人の尊厳をそれぞれが尊重していく結末になってた。
土台からして…天才的な新進気鋭の建築家を一般的な枠組みで推し量ろうなんて無理がある。
それに気づく聡明さを持ってる夫で良かった。
常に柔らかな眼差しの夫が印象的だったし、南極的なロケーションは、なんかもの凄いインパクトだった。
合成のようにも見えるのだけど、バックにペンギンが居るってのが新鮮だったなぁー。
天才的な建築家なんて特殊な才能ではあるけれど、子供に割かれる時間が少なくなって母から自分に戻れるようなタイミングが訪れた女性には、なんか刺さる部分もある作品なんじゃないかなぁと思う。