「これはよい映画だ!日本の童謡が出てくる!」バーナデット ママは行方不明 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
これはよい映画だ!日本の童謡が出てくる!
拾い物だった。なぜ、製作(2019年)から日本公開まで、こんなに時間がかかったのだろう。理由は二つ考えられる。
米国の富裕層の物語。何しろ雨の街、シアトル郊外の高級住宅街、雨漏りがするとはいえ、リノベーションされた広い建物に住む一見、幸せそうな家族。ご主人はマイクロソフトの最先端の研究者、ケイト・ブランシェット扮する奥さんのバーナデットは、今でこそ専業主婦だが、若い頃天才的な建築家だった。優秀な娘さんを中学校に送り迎えする車はジャガーか。その娘さんときたら、将来は東海岸の寄宿舎のある進学校に進むことが内定し、好成績のご褒美にクリスマス休暇に家族で南極旅行に行くことを提案する。でもこれは、日本はともかくとして、米国ですら飛び抜けた設定だ。彼の地でも、あまり受けなかったようだ。
おそらくそれ以上に、バーナデットときたら、才能に恵まれている故に人嫌いで、南極旅行のクルーズ船でも家族以外とは話をしたくないらしい。そんな風だから、周りとうまくゆくわけがなく、隣地との境で問題が起きてしまい、その時の態度たるや、暴力的で、言動もエキセントリック!とても、日本で受け入れられそうもない。
だから、日本でも、ほとんど話題にならなかったのだろう。しかし、これは見どころのある映画である。ケイトも、この映画で、2020年のゴールデン・グローブ賞にノミネートされている。では、どこが優れているのか。
バーナデットは孤立の原因は、はっきりしている。若い頃、設計し、賞までとったロスアンゼルスの建物が、本人の知らないところで買い取られ、挙句の果てに破壊されてしまった。希望を断たれた彼女は、夫の気に入ったシアトルに移って定住し、漸く得た病気を持って生まれた愛娘の育児に専念。家事は、基本的に遠隔でオーダーする。スマホに向かって語りかける(ディクテ)と、そのままメールになって、遠隔(インド)のアシスタントに届く。その人が全てを差配する。娘の学校関係以外のことで、他人と話すことはない日常。
でもこれって、私たちがコロナ禍で経験してきたことでは。リモートで生活していると、実は、一番楽なことは(少なくとも私の場合)人と直接接触しないで済むことだった。精神的にはとても危険なことだが。
こうした状態を克服するために、バーナデットはどうしたのだろう。薬漬けから逃れるために、彼女が本当にすべきは、過去と向き合うことだったはず。しかし、彼女はそれをしなかった。創造の道に戻ることを選んだ。その対象を、彼の南極の地で見出すことができたのだ。確かに、その道筋が丁寧に描かれていたとはいえない。最近の映画の多くがそうであるように、ストーリーはあっという間に、スピード重視で展開してゆく。それも、あまり評価されてこなかった原因か。
しかし、私には十分だった。もちろん、私たちが南極に行けるわけではない。私たちにできることといったら、家事を手伝うとか、ボランティアで社会的な活動をするとかになるのだろう。なんと言う落差。でも、この映画は、そうやって孤立から踏み出すことの重要さを私たちに教えてくれた。それが必要なことは誰にでもわかっているのだが。実際には、なかなかできない。米国でも、コロナが過ぎようとする頃、公開されていれば、違った評判を得ていたかも知れない。
日本人なら誰でも知っている童謡が出てくるところも、聴きどころ!