「黒幕」バイス U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
黒幕
妙に納得した作品であった。
冒頭、ちょっとした言い訳が語られる。
事実に基づいた話ではあるが、正確には分からないというような内容だった。
まぁ、一国の副大統領をやり玉にあげようというのだから、そんなものかと思う。
そんな注釈から始まったものだから、どこかボンヤリとした印象のまま作品は進む。
特殊メークは流石の出来栄え。
クリスチャン・ベールである事すら忘れてしまう。
ただ…あのクリスチャン・ベールがなぜこの作品をチョイスしたのかと思う程淡々と本作は進む。公表されている事象と、その内側をちょこっと憶測を盛り込んで羅列してるだけだ。
ディック自体は悪でも善でもない。
予想以上の事は起こらないし、起こそうとする器でもなさそうだ。
なんて事を思ってる内にエンドロール。
「えっ?俺寝てた?」
と思う程早かった。
なんて事を思ってたら、第1幕の終了みたいな事で…第2幕目からはブッシュ政権下の話が展開される。
丁度「記者たち」を前日に見た事もあって、俺の目はランランと輝く。
ブッシュは傀儡で黒幕はこいつなのか、と。
さあ、どんな悪事が暴かれていくのかと思っていたら、これまた目新しい事はない。
文字と言葉によって得た情報を映像化したような事で、基本的には第1幕と変わらない。
…盛り上がらねえなあ。
ラストカットは、ディックのインタビューだ。
どおやら本国では、かなり糾弾されていたのか、ド直球で戦争の話題が振られる。
ああ、このまま終わりかと思っていたら一転、ディックはカメラ目線で「俺は謝らない」とまくし立てる。
こりゃまた…とんだ幕引きだぜと思っていたら、こっから先が主題だった。
エンドロールが流れ始めた後の映像。
マーベルでいうところのオマケ映像だ。
ものの5分もない。
そこでこそ、この物語の黒幕が語られる。
「虚栄心」と「無関心」だろうか?
あまりの断定感に吹き出す程だ。
ディック自身、初めから腹黒かったわけではない。芝居もアングルも、照明でさえ、わざと色をつけぬよう配慮されてたように思えた。
敢えて「中立」の立ち位置を、ずっとこの作品はとっていたように思う。
映画クルー達は盛大な前振りを、精一杯のリアリズムとともに提示していたように思えた。
まさに冒頭の「言い訳」通りだ。
このラストが語るものは、ディックは「虚栄心」と「無関心」を餌に育っていったのだ、と。
このままでは、第2第3のディックは出て来るぞ、と。
エンドロール途中の5分足らずの映像。
ここに来て曲者クリスチャン・ベールとこの作品が結びついたような気がした。