「ある意味共和党謹製『カメラを止めるな!』」バイス よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ある意味共和党謹製『カメラを止めるな!』
世間的には『マネー・ショート 華麗なる大逆転』、個人的には『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』が印象的な一風変わった作風を世に問う社会派、アダム・マッケイ監督作品。
ワイオミング州在住の飲んだくれ電気技師から副大統領にのし上がるディック・チェイニーの半生を描いた作品かと思い込んでましたが、その辺りの立身出世物語は前菜程度の扱い。とはいえ若かりし頃のチェイニーもクリスチャンが演じているわけで、『レイジング・ブル』のデ・ニーロどころではない肉体改造ぶりに背筋が凍ります。
随所にオフビートなギャグをばら撒きながらニクソン政権下で既にラムズフェルドの右腕として活躍、共和党政権下で徐々に力をつけていく様はサラッとしていますが民主党政権下で辛酸を舐める辺りで臆面もなく『カメラを止めるな!』がやったアレを披露したりとあくまで辛辣なコメディ映画であることは冒頭で高らかに宣言されている通り。J・W・ブッシュをも操る権力を得るチェイニーの快進撃と並行して描かれる一市民の半生がチェイニーの生涯にポーンと投げ込まれるギャグは特に痛快、ブッシュ政権下で行われた非道を理路整然と叩きつける社会風刺の切れ味も抜群、やっぱり『アザー・ガイズ~』から全然ブレていない悪ガキぶりに一安心。散々苦笑いさせられた上にどんな権力を手に入れても一向に人並みな幸福を手に入れられないチェイニーの哀れな姿に自らを投影してしまった哀れなオッサンにドンヨリした気分がお土産として用意されている凶悪な作品。“バイス”には副大統領と悪徳のダブルミーニングがあるとよく言われていますが、政権を越えて権力の座に居座る姿は“バイス(万力)”にも似ている気がします。
やっぱり演技陣が本当に圧巻。クリスチャン・ベール、サム・ロックウェルがスゴイのは予告で知っていましたが、チェイニーの妻リンを演じるエイミー・アダムス、ラムズフェルドを演じるスティーヴ・カレル他誰もかれもが壮絶に達者なのでそりゃもう眼福。壮大に広げた風呂敷が結局は父と娘の話に集約していく辺りも『カメラを止めるな!』っぽいなと思いました・・・というか絶対参考にしてると思いますよ、アダム・マッケイ。