劇場公開日 2019年7月12日

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「さぞかし人生は楽しいだろう」さらば愛しきアウトロー 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0さぞかし人生は楽しいだろう

2019年7月17日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

幸せ

 ロバート・レッドフォードはポール・ニューマンと共演した「スティング」が最も印象に残っている。ちょっと軽めのプレイボーイというタイプのレッドフォードがポール・ニューマンと共に軽快なBGMに乗って華麗に悪党を騙す。「遠すぎた橋」ではスティーヴ・マックィーンの代役として出演し、わずか2週間の撮影の報酬が4億円と話題になった。金額が本当かどうかは定かではないが、それだけの価値があったと見做された俳優であることは間違いない。その後の俳優・監督としての活躍は誰もが知るところだ。
 歳を取ってからのレッドフォードは円熟味を増し、「オール・イズ・ロスト~最後の手紙」では、遭難したヨットマンがたったひとりの洋上で奮闘する様子を御年77歳で見事に演じてみせ、「ロング・トレイル」では79歳で往年の冒険家を演じて健脚ぶりを見せた。両方共観客を飽きさせない傑作であった。
 本作品のレッドフォードは銀行強盗である。上品な紳士と銀行強盗が両立するのはレッドフォードくらいなものだ。主人公は人生を楽しむために強盗をするのだと言う。これが年端もいかない小僧の言葉なら一笑に付されるだろうが、人生も終わりを迎えようとしている老人が更に人生を楽しもうとする姿勢には、呆れることを通り越して逆に感心する。
 成功してもよし、失敗するもまたよし。どちらに転んでもそこに自分の人生がある。主人公フォレスト・タッカーはそのように達観しているように見えた。そこには恐怖も不安もない。さぞかし人生は楽しいだろう。
 冴えない地元の刑事の存在が物語の幅を広げている。この役者がまた上手い。タッカーを調べれば調べるほど、捕まえたいような、捕まってほしくないような、とても刑事とは思えないような、微妙な心情が伝わってくる。どんな時代にも人を惹きつける自由な人というのはいるものだ。
 強盗の話なのになんだかほのぼのとして幸福な気持ちになる作品である。軽いタッチで演技しているレッドフォードだが、自由な魂は相当の覚悟と行動力によって支えられていることがそこはかとなく伝わってくる。観終わると、明日から自分も既存の価値観から解放されて自由になれるような気になる。そうだ自分も自由になっていいんだと、そう思わせてくれる作品である。

耶馬英彦