「原作は三回読んでいます」蜜蜂と遠雷 のとさんの映画レビュー(感想・評価)
原作は三回読んでいます
原作は三回通して読んでいます。一部だけを含めれば10回以上は手にとっています。
そして映画化されると聞いた時、カザマ ジンを誰が演じるのか?それがずべてだと思っていました。
そして、映画の中には、確かにジン カザマがいて、それだけでも物凄いものを見た気はいたしました。
原作における圧倒的な主人公はジン カザマです。
かれの物語は長い原作でも実は僅かです。しかし、だからこそなのでしょうか、原作者は彼が登場する場面において圧倒的なタッチでジン カザマを描いていきます。
この物語は、ジン カザマが初めてのコンクール出場において、最初から最後まで、極端に言えば、全く成長を見せない物語です。
なぜなら彼はギフトであり、ホフマン先生のたった一人の弟子であり、最初から完全なピアニストとして描かれているからです。
さて、映画。
松岡さんは頑張っていました。
この映画の主人公は彼女であり、彼女の再生の物語でした。
映画の初期での当惑は、困りました。なぜ、ストーリーを変えたのか?
全く理解出来ませんでした。
そして、理解出来ない理由が脚本やら大人の事情にあるのだなと気付いて、この映画は、題名や出演する人たち以外は、原作とは全く違う世界のものだと、覚悟を決めて見始めたとき、始めて、この映画のすばらしさに気づきました。
いい映画でした。
ただ、きっと多分、音楽に興味がない方にとっては、微妙かもしれません。
実際、僕の両隣の方達は途中で飽きてしまったようで、ガタガタと落ち着きもなく僕としては困りました(あそこまで酷いのは初めてでした)。
松岡さんのファンだとか、そんな気で見にはいかない方がいいかと。
それから、ピアノのチューニングが素晴らしかった。
前半、ヤマハが始めて弾かれる時だけ、僅かに狂っていて、ヤマハ可愛そう(実際の演奏はどのピアノかわかりませんが)でした。
しかし、後半のすべてのピアノの透明感あるチューニングは見事でした。
全く揺れを感じさせない音に浸るのも気持ちが良かったです。
演技されていた方々もよく頑張って見せたと思います。しかしそこは指の動きを見るよりもクリアな音に身を任せた方がいいかと。
それにしても、カザマジンだけを追っていけば、よりクオリティーの高い映画が生まれた可能性もあり残念です。
彼を演じた方の凄さ。言葉になりません。
でも、原作にあるカザマ君に寄り添う調律師の方の話があったらと思うと残念です。
長くなりました。
クリアな音に身を任す上質な時間を過ごされたい方は、絶対映画館に足を運ばれた方がよろしいかと思います。