「日本の音楽映画では最上位に位置するのでは」蜜蜂と遠雷 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
日本の音楽映画では最上位に位置するのでは
芳ヶ江国際ピアノコンクール。
3年に一度開催され、前回優勝者が世界トップクラスの注目を浴びていることから、若手ピアニストの登竜門として世界から注目を集めている・・・
といったところから始まる物語で、コンテストに出場するピアニストたちのうちの4人に焦点があてられて物語は進んで行きます。
ひとりめ、栄伝亜夜(松岡茉優)。
天才少女と謳われていたが、母親を亡くしたことをきっかけにスランプに陥っている。
ふたりめ、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)。
ニューヨークの名門・ジュリアード音楽院の秀才。
ただし、幼い頃は、亜夜の母親にピアノを習っており、亜夜とは幼馴染。
さんにんめ、高島明石(松坂桃李)。
コンクール出場の年齢制限ギリギリの妻子あるサラリーマンピアニスト。
「生活者の音楽」が彼の心のよりどころ。
よにんめ、風間塵(鈴鹿央士)。
先ごろ他界した世界的ピアニスト、ユージ・フォン・ホフマンが送り込んだ未知数の少年。
「世界は音楽で満ち溢れている」と亜夜に告げる。
登場人物の背景などをあらためて文章にしてみると、かなりベタな設定で、これで(いわゆる)ドラマを中心に描くと、かなり世俗的でベタベタ、ウェットになりかねない。
そこんところを、脚本・編集も兼務した石川慶監督は、音楽を中心にみせることに徹しています(原作でも、音楽を文章で表現したらしいが)。
この試みは、成功。
4人の登場人物それぞれに別々のプロの吹替ピアニストを用意し(クレジットでわかる)、音楽をプレレコし、それに合わせて演技を付けている。
ピアノの音質も違うし、俳優たちのキータッチもスタイルも違う。
もっとも顕著なのは、二次予選の課題曲「春と修羅」のカデンツァ(即興演奏・自由演奏)のシーン。
カデンツァのフレーズは、それぞれ特別に作曲したと思しいが、それぞれのキャラクターに適した演奏、カット割りで魅せてくれます。
最終選考の協奏曲、オーケストラが登場してからは、アクの強い指揮者・小野寺(鹿賀丈史)が登場し、これまた、映画のタッチを絶妙に変えていきます。
全編がピアノを弾くシーンで満たされ、結末もこれ以上描くと蛇足になる、というギリギリ絶妙なタイミングでエンディングを迎えます。
日本映画(外国映画も含めてかも)の音楽映画では最上位に位置する映画ではありますまいか。