「うつろ」エリカ38 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
うつろ
希林さんを見たくて鑑賞。
結果、お会いした事はないんだが、隣の席に座りポツポツと独り言のようなお喋りを聞いてるような気分になった。
脚本には監督の名前のみがコールされていて、この脚本を希林さん抜きで書き上げたのなら、恐るべき御仁であると思う。
作品は実話を元にした詐欺事件を通して進んでいく。信用詐欺とか何らかの名称はあると思うが、お金を騙しとられた話だ。
なのだが、どおにもテーマはそれじゃない。
人間って基本馬鹿なのよ、って話に思える。
何を求めて生きてるのって?
もっと言えば、求めるものって何かあるって?
この作品のただ一つを除いて実像を感じないのだ。
お金もそう。他人もそう。人との繋がりだってそう。食事もワインも、全ての物質や感傷までも。
自分が死ぬまでの間に浪費してる時間の途中に、目の前を通り過ぎていくよく分からないものに見えてくる。
執着するものなど何一つない、と。
「なんか適当な名前をつけて分かってるフリをしたいだけなのよ。」
そんな事をサラッと言ってのけてケタケタ笑う希林さんが隣にいるような感覚。
そう思わせてくれた監督にも浅田さんにも敬意を表する。
「金を返せ」と捲し立てられるシーンがあるんだけれど、飄々とした浅田さんの受け答えのせいで小鳥がえらい剣幕で鳴いているようにしか思えない。
いやいや、とんでもない極悪人のはずだよ。他人が人生賭して稼いだ大金を騙し取ってんだから。でも何なんだ、この浮遊感は。
エリカは悪びれる風でもなく、困った風でもなく、取り繕う事もせず、勿論、謝りもしない。追い詰められてる感さえない。常時ニュートラルだ。
何か全てがそんな感じで、全ての既成概念が塗り替えられていく感覚。
ただ困った事に、彼女自身を悪人とも思えないのだ。どちらかと言えば、彼氏を信用してついていった結果のようにもとれるのだ。
それ以外の事を全く無視できるってのは、精神異常の部類に入るとは思うんだが。
唯一実像があるのは、コレで「体温」
自分の肌という感覚器官を刺激してくれる体温。コレにだけ実像を感じてた。
でもレビューを書きながらに思うのは、その体温でさえ、それ自体を求めてるわけではないのでは、と思う。
鏡に映る自分を観てるような。
愛しいひとに微笑みかける自分を、その人の存在を通して確かめてるような。
そう思うと、確かに存在するってのは自我だけであって、それは自分一人では確かめようがない厄介極まりないものにも思う。
ラストカットは無表情のエリカの顔だったように思う。
その顔は、若干若く見えて38歳のように見えた。年齢なんて記号以外に意味はなく、年相応なんて余計なお世話と言われてるようだった。
断捨離なんて言葉があるけど、この映画を観た後だと、そんな言葉や行為さえ捨ててしまえば?って思う。
なんせ、こんな感覚は初めてだ。
人の死でさえ「初めから決まっている事なのに何を今更悲しむ事があるの?」って言われてるようだ。
「もう居ないって思わされてるだけかもよ?」
そんな禅問答を朗らかな調子で話してる希林さんを感じた映画でした。
エンドロールのバックに流れるのは実際の被害者たちの声だった。
これはこれで衝撃的だった。
4:3のフレームは気にならなかったけど、敢えてそうしたのには意味があるように思えてならない。例えば「昔は当たり前だった。でも今は違うし、初めて目にする人もいる。変わらないものなど何一つない」みたいな。
照明はもうちょい明るい方が良かったんだけど、フィルムっぽい質感を見るに、あまり明るくしたくない理由があるようにも思えた。
表題の「エリカ38」を「実在しない」とか「幻」とか「錯覚」と訳せばなかなかに優れた題名だと思える。
木内みどりさんが、最高だった!!