マチルド、翼を広げのレビュー・感想・評価
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優しく、愛おしい
母と暮らすマチルドは9才の女の子。
母親は何らかの障害がある。情緒か精神か。アルツハイマーかも知れない。恐らく(日本の制度を照らせば)、育児能力がないと判断され、児相に行くケースだと思う。
夜遅く帰る、食事を作らないなどはよくあること。突然、デパートでウェディングドレスを買う、娘の学芸会で自分もステージに上がってしまう、など。マチルドは母親の奇行に振り回され、学校でも孤立気味。それでも、マチルドは母親を支えようとする。
父親は離婚して、別々に暮らしている。
ある日、母親がフクロウを拾ってきて、マチルドにプレゼントする。このフクロウはなぜか、マチルドとだけは話せるのだった。
フクロウはマチルドに「君はいかれた母親に縛られている囚人だ」と言う。
劇中、まるでミレーの名画「オフィーリア」のようにマチルドが死んでいるようなイメージが、たびたび挿入される。
また、学校の人体の骨格標本を“埋葬”するために地面に穴を掘ったら、死体のように、そこに寝そべるシーンもある。
母に囚われ、死んでいるようだ、との象徴だろう。
それでもマチルドは母と一緒がいい。
母が施設に入ると聞いて、マチルドは学校から急いで帰る。このときの、前のめりで走るシーンが印象的だ。
ラスト、成長したマチルドは施設に母を訪ねる。突然の豪雨に見舞われるが、2人は手を取り、ダンスを踊る。2人とも無言だ。言語化出来ない母と娘の絆を感じさせる。
そして、その後2人は部屋に戻り、一緒に詩を作る。マチルドが小さな子供の頃、母が彼女を慈しんだ記憶を呼び起こす。
施設の近くの湖に、やはり「オフィーリア」のイメージで水に沈むマチルド。しかし、このときは水中から起き上がる。
いつまでも母親に囚われているわけではなく、彼女も自立し、そして母親に向き合っているのだろう。
ここでもフクロウが登場するが、もう話さない。フクロウの声は、マチルド自身の心の声だったのである。
本作は、母親だけを一方的に責めるわけではない。母親の行動に業を煮やし、マチルドもまた間違いを犯す。彼らに関わるフクロウも父親も、みな優しい。
たまらなく愛おしく、深い印象を残す作品だ。
とりわけ、マチルド役のリュス・ロドリゲスが素晴らしい。子供らしい無邪気さと、家庭に問題ある子供にありがちな大人びたところの両面を見事に演じている。
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