「ベル・エポックとは無関係なドタバタ劇にがっかり」ディリリとパリの時間旅行 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
ベル・エポックとは無関係なドタバタ劇にがっかり
字幕版で鑑賞した。
「ミッドナイト・イン・パリ」のような、パリの黄金期の風情を楽しめる映画を、自分は期待していた。
確かに、街中のポスターやアイアンワーク、建物の壁面、最後の方で出てくる豪華なサラ・ベルナール邸などでは、アール・ヌーヴォーの香り高きアートを見ることができる。オペラ座も新しい。
だが、残念ながら、たったそれだけだった。
ベル・エポックと何の関係もないストーリーには、正直がっかりした。本作においてベル・エポックとは、単なる小道具にすぎない。
ラストの電飾された飛行船も、取って付けたような印象だ。せっかく飛行船を使うなら、「魔女の宅急便」くらい、しっかりとやって欲しい。
ごく普通に、当時の様々な人々とふれ合う展開だけで良かったのに、よりによって架空の“誘拐団”を持ち出して、表社会に背を向けて地下に潜るとは・・・。
なぜ残酷なテーマを、中途半端な形で持ち込んだのか理解に苦しむ。海外のレビューを観ると、「子供が見るにはふさわしくない内容」という批判が、意外にも目立つ。
それだけでなく、主人公ディリリの、ニューカレドニアとフランスの混血という出自が、(冒頭以外は)ストーリーと関係がないのは疑問だ。
確かに、「今度は私が観光する番よ」と、パリの何もかもが目新しい少女という設定が欲しいのは分かる。また、普通の子とは反応が違うという、面白さもある(紳士の服装を見て「喪服なの?」と尋ねるシーンは微笑ましかった)。
しかし、フランス系カナカ人に対する人種差別に触れるのならば、もっと掘り下げるべきだろう。結局、話としては、アメリカ人でも誰でも良かったように思える。
当時の文化人が、お約束のように、多数登場したのは、予想通りだった。
キュリー夫人、プルースト、レイナルド・アーン、サティ、コレット、アンリ・ルソー、マティス、シュザンヌ・ヴァラドン、ルノワール、ドガ、ロダン、カミーユ・クローデル、サントス・デュモン・・・。
その存在が明示されていなくても、「ウォーリーを探せ」的な楽しみ方もできるだろう。自分は、バーでディアギレフを見つけた。
また、ディリリのニューカレドニア時代の先生というのは、ルイーズ・ミシェルというアナーキストらしい。
なお、(ディリリやオレルと共に行動する)エマ・カルヴェ役の声優が、有名なオペラ歌手のナタリー・デセイと知って驚いた。
しかし、文化人の出演の仕方は、ほとんどの場合、単なる“こじつけ”であって工夫がなさ過ぎる。
彼らの存在で“箔付け”をしているだけの「虎の威を借る狐」の映画であって、この点が一番不満なところだ。
例えば、ピカソやモネと出会うのだが、画家とするべき会話内容ではないだろう。ドビュッシーは、ちょっと会話して去って行く。パスツールを出したいためだけに、犬にオレルを咬ませている。ポール・ポワレは、売り出し中とはいえ単なる仕立屋だ。ロートレックは、なぜか探偵の手伝いをする・・・。
せめて何人かは、ストーリーと密接に結びついて欲しかった。
出演の仕方が面白かったのは、英国皇太子エドワード(のちの七世)だけで、のほほんとした感じがキャラに合っているように思われた。
それでもともかく、ストーリーさえ面白ければ、許せるだろう。
しかし、混血のディリリ、ベル・エポック、組織的誘拐事件という3者が、全くかみ合っていない退屈な作品だった。
「男性支配団」という誘拐組織との対決が本格化すると、ドタバタした劇になってしまったのは残念。「当時の女性差別を象徴的に扱っている」という論調があるが、それなら象徴的ではなく、表社会を直接描くべきではないだろうか?
正直なところ、最後の方は、眠くて仕方がなかった。
詳しい解説ありがとうございます!勉強になりました。^ ^
この方面に詳しい方にとっては
子ども騙しの低いレベルになってしまうのですね。(><)
でも初心者、全く知識の無い人にとっては、ベルエポックの世界への入り口としてなかなか良かったと思います。
ツッコミ所満載ですが、なかなか楽しみながら見させていただきました。いろいろこの時代の登場人物を調べていくとすごく面白いです!