劇場公開日 2019年5月17日

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「しばらく席から立てず」僕たちは希望という名の列車に乗った KI (@mebaru0141)さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0しばらく席から立てず

2019年7月13日
iPhoneアプリから投稿

ハリーポッターシリーズで好きな作品といえば「不死鳥の騎士団」なのですが、更にその好きな部分を濃縮したような作品でした。

まだベルリンの壁ができる前の東ドイツ、社会主義国家ソ連占領下。高校の生徒たちは授業開始後、同じくソ連占領下のハンガリーにて自由を求めた人へ追悼の意を込めた2分間の黙祷をする。

その行為が社会主義国家への反逆とみなされ、最初は学校の教師から、校長、教育局員と徐々に事態が大きくなり、教育大臣までもが、誰が首謀者か尋問に乗り出す。信念を貫いて仲間とともに歩むのか、友人を裏切りエリートコースを進むのか。

祖父の墓参りと同じような気持ちだったのだろうか、社会主義への反骨精神だったのだろうか、ただ単に興味本位で多数決に乗っただけなのだろうか...
個々の生徒がどのような気持ちで黙祷していたか分からないが、"たった2分間"が許されない状況になる社会主義の怖さを感じました。

史実を基にした社会派映画であることに加え、こんな青春したかったと思わせるぐらいに、青春ものとしても濃度が高い。家庭と学校、友情と恋愛、社会的地位と自由、困難や葛藤に対し、自ら考え、互いに主張し合う。

本作に出てくるキャストそれぞれ個性のある登場人物を演じ、それぞれにしっかりと焦点を当てて、描写が丁寧なため、キャラが生きていた。特にパパさん2人が良かった。対照的ながらもやはり自分の子供は可愛いのだなと。後、教育局調査官のケスラー。醸し出る冷徹な雰囲気や表情が凄まじかった。生徒の集会所であったパウルの叔父宅への訪問シーンは、終始全ては映されないが想起される非情な仕打ちが怖い。

国家に睨まれる深刻さを表現しつつも、ラストは親子関係に話が展開するのも見事でした。

ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、列車に乗った後はどうなったのか、色々と思いが巡り、エンドロール後もすぐには席を立てず。

K-TA