「ゆるキャン…?」映画 ゆるキャン△ 雪雲さんの映画レビュー(感想・評価)
ゆるキャン…?
率直に言ってしまうと普通。
普通の大人のお話。
映画にするほどの話かという感想を時折見かけるが、つまりそういうことなのだと思う。
リアルとファンタジーのバランスがあまりよくないというか、アニメならアニメとして非現実的に振り切ってドラマチックにしてもいい気がするのだが、変にリアルなせいで話がぱっとしない。
その割に遺跡発見の下りなどは違和感強かったり、一貫性の無さが気になる。
それから作品テーマが本編と違うので、やっぱりゆるキャンのキャラが出てる別の作品感がある。
この本編との乖離性もゆるキャンというより普通の大人の話という印象をもたせるのかも。
一応本編中でもリンの身の回りの話を中心に次の世代につながっていくという印象があるのでその延長線の話としてのゆるキャンともいえるが、それならそれでもっと次に伝えることをメインに据えた話作りにした方が良かった気がする。
キャンプの楽しさを伝える対象も劇中の若い子たちだけでなく視聴者も含まれるはず(本来自分で厳選したギアで臨むのが醍醐味のキャンプでなでしこがレンタルのキャンプ道具をもってきたのは、道具がなくても借りたりしてできるからまずは気軽に踏み出してみて、というようなことを伝えたいのだと思う)だが、その割に本編のようにキャンプや旅を心から楽しむといった描写に乏しいので本編ほど自分もやってみたいと思えない。
また、テレビ版を見た人には分かる系の演出が劇中終始ちりばめられていたが、ファンサ系の映画にするにもやっぱそもそもテーマが違うせいでゆるキャンっぽくない感じになってるのが噛み合わない。
それにこの本編とつなげる演出、テーマ的にも話の構成的にも不要と見えるが、それがやりたいがために無理矢理つっこむといった流れが多いのも余計なことをやってる感を目立たせる。
一般にはこれらの演出は”エモい”として好意的に評価されているが、映像作品というのは最初から最後まで通して初めて一つの作品になるのであって、シーンをぶつ切りで見て、いいシーンが多ければ良い映画になるというものではない。
確かに自分も”お、TVシリーズのあのシーンの…”と劇場で思いながら見ていたが、シーンごとの印象の良し悪しと映画全体の出来の良し悪しは別の話。
イタリアンのコースを食べに行ったのにスープに味噌汁、パスタに焼きそばがでてきたら、たとえそれぞれの味が悪くなくてもそのコースに大満足とはならないだろう。そういうことだ。
高校時代を思い出させる演出なら、ああいうわざとらしいものを無理にちりばめるんじゃなくて、大人になって高価な装備も手に入れて薪ストーブ付きのテントで暖を取れるようになっても、鳥籠の下みんなでブランケット被って星空を見上げる、そういうのが見たかった。
最後にまとめると、ゆるキャンという素材を使って制作側が何をしたかったのかがイマイチわからない作品だったかな。
一言で言ってしまうとすべてが中途半端。
なでしことリンが野湯に入るシーンでなでしこが多少作品テーマについて説明をくれたから、かろうじて納得できてる感じなんだけども。
この映画を先の飲食店のたとえで言えば、和食チェーンの企業が新ブランド立ち上げたというので行ってみたら洋風の店構え、コース頼んでみたらイタリアン出てきて、”ああ、イタリアンなのか。それもいいかな。味はフツーだが…”と食べ進めていったら、ところどころで”旧来のお客様への配慮としてスープは味噌汁、パスタは焼きそば、ドルチェは桔梗信玄餅でございます”みたいな進め方された挙句、店員は”イタリアンなんですよ”って言ってる店…ってところか。
まあ、ミシュランで星をとることはできんよね。