劇場公開日 2019年5月10日

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「おもちゃの電車に見る母への思い」ホワイト・クロウ 伝説のダンサー とえさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0おもちゃの電車に見る母への思い

2019年5月30日
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鑑賞方法:映画館

自由な時代に生きていることのありがたさを噛みしめる作品だった

冷戦時代に活躍したソ連のバレエダンサー ヌレエフの実話の映画化

監督は、俳優のレイフ・ファインズ

前半は、田舎町の貧しい農家に生まれたヌレエフが生きていくために、さらなる高みを目指してバレエダンサーとして生きていく姿が描かれる

しかし、トップダンサーになると、いろいろな欲望が生まれてくる

ヌレエフは、西側の文化も積極的に学び、将来のために英語も学ぶようになる

しかし、当時のソ連でそんなヌレエフの考え方が許されるはずがない

ヌレエフは、パリで公演するバレエ団のメンバーに選ばれるが、常に監視がつくような状態だった

バレエダンサーとして、さらに羽ばたきたいと思い、様々な芸術に関心を示していたヌレエフだったが、彼に許された自由は限られていた

それはまるで、鳥かごの中の鳥のようで、彼を見ていると
「もっと自由にさせてあげたい」という気持ちでいっぱいになった

そして、後半、彼は生き抜くための選択をするのだが、そこから先はスリリングなサスペンスのようだった

そんな過酷で激動の人生を送ったヌレエフだったが、彼の家族への思いがとても印象的で、心に残っている

その思いを象徴しているのが「おもちゃの電車」だ

走っている電車の中で生まれた彼は、どんな時も、大人になっても、おもちゃの電車を持ち歩いていた

それは、彼にとっての「家族の思い出」なのではと思った

幼い頃にバレエ団に入れられた彼には、家族写真もないけれど、電車を見ては田舎町に暮らす母のことを思い出していたのではないかと思う

そんな彼が、パリで高級なおもちゃの電車を求めていたのは、田舎町で貧しい暮らしをしている母に贅沢をさせてあげたいと思っていたからではないかと思う

しかし、そんな彼の思いは叶わない。

彼の母が亡くなってから10年足らずで、ヌレエフ本人も亡くなってしまったところに、そんな彼の母への思いが見えるような気がした

その時のヌレエフの人生を思えば、今、自由に生きられることが、どれだけありがたいことなのか

そして国の思想が、個人の人生を台無しにすることがあってはいけないなと思った

とえ