「機微な問題をコメディにできる力」テルアビブ・オン・ファイア andhyphenさんの映画レビュー(感想・評価)
機微な問題をコメディにできる力
冒頭からいきなり「それっぽい」感じ全開のメロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」。検問にうっかり引っかかったドラマのヘブライ語指導担当の主人公が、実はドラマの熱烈な視聴者である検問所の司令官に脚本家と勘違いされ、ドラマへのアドバイス(というかダメだし)を受けて...。
主人公は頼りなさ全開の、イスラエル生まれのパレスチナ人。スパイもの、恋愛もの、三角関係というメロドラマの題材は緊張関係にあっても皆に受けるようで、イスラエル人にも大人気の「テルアビブ・オン・ファイア」。司令官も「反ユダヤ的だ!」とか言いながら夢中である。
物語の根幹は、イスラエルからパレスチナからそれぞれの希望のストーリー案を突きつけられて困る主人公が、あちこちぶつかって悩みながらも成長していくさま。そして簡単に「解決」できないパレスチナ問題である。
途中まで完全に司令官アッシの言いなりで物語を作っている主人公サラームが、どんどん自分の言葉を得ていく様子は観ていて爽快だ。しかし自分の言葉を得るということは、結局、全部人の言いなりにはなれないということを意味する。
全体的に緩いテイストで物語は進む。途中から完全に提案が命令になってしまう司令官、1967年という時代を生きてきたおじの思いと主張、なかなか扱いが難しいフランス人女優などなど、あっちを立てればこっちが立たずという格好である。現実も結局そうなので、コメディでありながらリアルを非常に綺麗になぞっているともいえる。
歴史に無頓着に見える主人公サラームにもフムスのトラウマがある。なぜ彼がフムスを嫌うのかが、最後の重要なキーになる。
最後の強引な持って行き方は笑ってしまうが、現在も続く問題においてあの妥協案が結局最前の策なのだろうなあ、とも。誰も傷つけないのは無理でも、現状をとりあえず踏まえて先へ進む。まだ続く物語。
物語を通してぐんぐん成長していく主人公が面白かった。5分と座っていられないところからあそこまで成長するなんて...!強引にも見えるけど、人の成長ってある種の希望だよね。主人公は希望であるのだ。
そしてフムスね。フムス食べたいね。映画館はここでフムスを出せば大流行なのでは...