「旅のガイドブック」グリーンブック toukyoutonbiさんの映画レビュー(感想・評価)
旅のガイドブック
「黒人ドライバーのためのグリーンブック」、1930~60年代にかけてアメリカを旅する黒人のために発行されたガイドブック(黒人も泊まれる宿泊施設や車両整備を受けられる店を示したもの)
そんなんあるんだ、知らなかった。でもグリーンブックって語感がお洒落だな。
どんなふうに編集したんだろ、面白そう。
内容は主演二人の演技が素晴らしく、トニーの荒くれ者でガサツで下品な演技や、その対比のようなドクターの洗練された振る舞いが面白い。後半になるにつれ増してくトニーの愛嬌と魅力、二人の道中で培った友情に心温まる。
レトロな気持ちになれる街や店の風景も良かった。
シャーリーから手紙の指導を受けながら、天才ピアニストに流行りの曲について教えたりフライドチキンを勧めたりするシーンも、お互い持っていないものを与え与えられという友情が形になっていくのが見ていて良い。
●トニー
冒頭黒人が使ったグラスを捨ててしまう位の差別感覚を持つトニーが、道中では黒人の同労働階級者達といきなり賭け事を楽しんでいる(シャーリーの演奏に感動して目を覚ましたという風には見えない)、また自分と重なるはずの差別する人々にドクターを差別されたことで怒ってみせる。
差別していたはずの自分に向き合うこと無く、差別していたことについて強く衝突することも無いのは気になった。
最初は「差別をする人も愛する妻や子供、友人を持って生活する側面がある(それは黒人も同じなのに)」、「主人公はイタリア系で差別されることもままあるはずなのに、差別される側でも黒人差別をしていた」という要素を取り入れてトニーを描いているのかと思ったが、差別側としての立場トニーではなく、シャーリーの友人となる彼、というのが作中の立ち位置だろう。
もう少し差別した側としての葛藤を見たかった。トニーは自分勝手で粗野な人物なので、非常に正直にエゴや差別意識丸出しの心境を出して踏み込んでも批判されなかったと思う。
「よく耐えられるな、俺だったらあんな扱い受けたら~」の台詞にも驚いた。なんの悩みもなく黒人の受けた仕打ちを自分に置き換えてみせるのだ。トニーのキャラクターとしての魅力も好きな自分にはますます好きになれる部分なので不満はないが、黒人差別を思い起こすと強烈な違和感だろう。
トニーは金持ちに肩入れする立場になく(むしろ反感を覚える)、演奏会での富豪層側には共感できないというのもあろうが、差別していたトニーが罪悪感ないまま黒人側に立てるかというと疑問だ。
人種ではなく一個人としてシャーリーを見るようになったトニーというより、彼の粗野だけれども家族仲間を大切にする(だからシャーリーが黒人でも行動を共にしていくうち受け入れる)、という生来の気性があったという印象を受けた。
駆け足に仲良くなったなという感想だ。雰囲気は良いんだが、過程があまり見えない。なのにテンポは非常にゆっくりなのでちょっとダレた。
映画を見終わった印象では登場した黒人差別より、富裕層と貧困層の断絶の印象が強かった。「俺のほうがニグロだ」という台詞を白人のトニーが吐く。被差別の黒人でありながら同じ人種の人々とは暮らしも育ちも違うために混ざれない、しかし白人にも仲間に入れてもらえない孤独さを抱えるシャーリー。
ここが解決することはなかなか無いだろうと思う。貧しい側として描かれたバーや農園、モーテルで黒人たちがお遊びにシャーリーを誘うが断られる。唯一繋がったのは酒場の演奏だ。分かり合うなんてのは本当に遠い道なんだろう。