「老いも、忘却も、全てが日常」長いお別れ ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
老いも、忘却も、全てが日常
高齢化社会と呼ばれる今日、高齢者の認知症患者数は460万人とも言われている。家族であっても介護は楽なことはないし、自分の家族の記憶が徐々に消えてくることは言葉では言い表せない悲しみがあることだろう。私の祖母も認知症を患い、10年以上も介護施設に入所したまま人生の幕を下ろしている。晩年は面会に行っても私が誰か分からないままだった。
しかし、この作品はそんな介護の辛さや悲しさをあまり表に見せない。むしろ、父親の認知症を機に家族の絆が深まっていく様を描いていく。「長いお別れ」というタイトルは実にピッタリだ。記憶が次第に失われていく中で、ポツリ、ポツリと父親の中での記憶が蘇るも、また消えていく。それは現在の父の記憶であったり、昔の父の記憶であったりと様々。特段、2度目のプロポーズシーンには笑いながらもホロリとさせられるし、時折見せる“父親”の顔も家族の励みとなっていく。その表情、その笑顔、山崎努の演技が実に見事だ。
もちろん、介護している側も疲労が蓄積する。辛いこと、大変なことが多いのが実際であるし、この作品のように明るく振る舞える家族はごく少数であろう。しかし、これは誰にでも起こり得る話だ。自分が介護する側になるかもしれないし、介護される側になるかもしれない。だからこそ、老いることも、記憶がなくなっていくことも、ごくごく日常的なことで、悲観する必要はないのだよと本作は言っているように思える。『ペコロスの母に会いに行く(13)』もそうだったが、そういった介護の中でつながる絆の存在を伝えていくことがこれからの社会には必要なのかもしれない。ただ、ラストをあの形で締めくくるのであれば、もっと孫の存在を大きく描いて欲しかった。