劇場公開日 2022年6月17日

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「やはり文庫本「峠」のなかの河井継之助がすべてでした」峠 最後のサムライ jackalさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0やはり文庫本「峠」のなかの河井継之助がすべてでした

2022年10月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

あの小説を映画にするって、難しいんじゃないのかなあ・・。
知人から、司馬遼太郎の「峠」が上映されると聞いたとき、ふと感じました。

映画は、小説のなかから場面を慎重に選びとり、役所広司と松たか子のすばらしい演技で、凛々しく、美しく、哀しい物語りにまとまっていたと思います。
ただ、小説であれば、たくさんのエピソード、人との出会い(たとえば吉原の小稲、松山藩の山田方谷、福沢諭吉など)が延々と続き、それを読むうちにだんだんと河井継之助という強烈な個性がこちらに染み込んできて、いつしか、継之助の感じ方や判断・行動を「なるほど、そうするのしかないのだろうな」と納得し共感するようになります。

そのような継之助のイメージが映画の前半で観る人のなかに創り出せないと(時間的に無理だと思いますが)、たとえば小千谷談判の場面で、いつもらしからぬ継之助の忍耐、へりくだり、逡巡、最後に痛切な悲壮感をもって諦め、これが激烈な戦争突入へのエネルギーに切り替わるのですが、これは演技だけで表すのは無理で、「・・・こうして戦争になってしまいました」という単なる説明になっていると思います。
ガットリング砲がなにかおもちゃのようにしか見えないとすれば、それはガットリング砲に託した継之助の強い長岡平和希求の気持ちと、入手までの努力がわからないからです。

「峠」はやはり司馬遼太郎の文庫本二冊でじっくり楽しむものだ、という直感は当たったような気がします。

jackal