「パッドマンという名のスーパーヒーロー」パッドマン 5億人の女性を救った男 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
パッドマンという名のスーパーヒーロー
予期していた以上に、本当に素晴らしい映画だった。私がインド映画で一番楽しみにしているのは恋愛パートの歌なのだが、これもきっちり入っていて大満足。
主人公・ラクシュミが妻・ガヤトリに惚れて惚れて惚れまくって、その末に結婚したんだ、っていうことは大事な部分。それを普通に台詞や芝居でやると控えめ過ぎたり、あるいは嘘臭いほど過剰だったりするせいで、イマイチ伝わらない残念な感じになることもあるのだが、その点歌はイイ。
大袈裟な愛の台詞も歌詞なら気にならない。
愛する妻・ガヤトリと片時も離れたくないラクシュミだが、「女の穢れ」のせいで一人寝を余儀なくされる。嫁を貰うまで現象すら知らないラクシュミに対して、「トライアウト」と揶揄する近所の少年は現象自体の知識はある。
インドが内包する「格差」の一つが序盤から明確に示される。
ひたむきに妻の為を思い、その思いがやがて「ナプキンの自作」という突拍子もない行為へと繋がっていく。
言葉足らずな面はあるものの、ラクシュミの純粋な思いと、それを許さない伝統的な価値観のギャップはとても歯痒い。
しかしそれは観ているこちらが「あって当たり前」の世界の住人だから、なのだ。
「ないのが当たり前」の世界の住人たちは、高過ぎるナプキンの使用を躊躇い、女の領域に立ち入ろうとするラクシュミを不審に思い、守ってきた伝統を破壊しようとする異物を拒む。
それも考えてみれば当然の事。当然だから、歯痒く、辛く、心を揺さぶられる。
ラクシュミがパリーという良き理解者・パートナーを得て快進撃を重ねる様子はまさに爽快。顧客と従業員、知識と雇用が拡大していく様子は、本当に胸踊る気持ちがした。
一見すると「生理」関連の事だけを取り上げている映画のように見えるが、インドという巨大な市民を抱える国家の問題点が色々とリンクしていて、本当に興味深い。
問題だらけだからこそ、その問題を解決する事が大きなビジネスに繋がっていくし、国そのものを大きく育てることに繋がる、という明確なメッセージを、さらに拡散させていこうという製作側の意識にも素直に感動させられる。
最後に、ラクシュミが自分を支え続けてくれたパリーではなく、ガヤトリの元へと戻るエンディングについて。
ラクシュミのそもそもの動機が「ガヤトリを守りたい」というものである以上、どんなにパリーが魅力的な女性でも、どんなにパリーがラクシュミの理解者だとしても、ガヤトリの元へ帰るエンディング以外はあり得ない。
いや、私もパリー派だよ?パリーとイイ感じになったことも微笑ましく観てたよ?
ただ、パリー自身も自分の父に対して告白したように、「愛する人を守りたい、その笑顔を守りたい」という純粋さを失ったら、多分ラクシュミはパリーにとっても「特別な人」ではなくなってしまう。
インドの先進的女性の代表格のようなパリーに、幸せになって欲しい気持ちは痛いほどわかるけど、やっぱりラクシュミがラクシュミである特別さ、というのはガヤトリへの献身的な愛抜きには語れないよね。
このちょっとやるせない感じも、「パッドマン」の良さかな、という気がする。