「ふんだんに棘を添えたおとぎ話」マダムのおかしな晩餐会 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
ふんだんに棘を添えたおとぎ話
富豪の屋敷の造形、晩餐会の様子など普段の自分の現実からはかけ離れた描写とカラフルポップな映像表現に目を奪われる。
見た目だけで楽しい絵本のようなタッチなのに、まあ棘の多いこと多いこと…
おとぎ話の要素が散りばめられていて、それを皮肉っているのか大人の世界に昇華させてるのか。
マリアが晩餐会に参加するまでの攻防、晩餐会の席での言動の一つ一つや彼女に惚れ込むデヴィッドのどれもこれもコミカルでハッピーな空気を感じて笑いながら観ていた。
本来仕える側であるメイドが身分を偽ってパーティーに参加して、食べる側である富豪と身分の差のある恋に落ちるはモロに「シンデレラ」。
しかしあの王道ストーリー展開にアンの憤りや周囲の人間模様がチクチクと針を刺し、なかなか一筋縄ではいかないのが面白い。
王族とかならまだしも、この現代においてただの富豪と召使の恋に身分相応も何も無いだろうとは思うんだけど、アンの無意識な差別思考は結構キツイものがある。
フィリピーナだからダメ発言とか、おめかししたマリアのを褒めつつ裏では「ブスよね?」と旦那に毒づく始末。
アン自身は「自分はリベラル」「マリアは家族のようなもの」と言っているけど、その見下した目線は隠しきれない。
高慢ちきで自意識が高く、なぜマリアの恋を応援できないんだと腹立って仕方ないんだけど、どうしても彼女を責め立てきれないもどかしさもある。
再婚とはいえ玉の輿の年の差結婚。
旦那とは没交渉で寂しく、友達を招いても見下した存在のマリアに注目が集まって寂しい。
不倫相手の情事に積極的かと思いきや小さく抵抗しているような振りも見られたり、大胆に迫ってみればあっけなく去られたり。
とにかく心の隙間が大きく空いているのが全面に出ていて、その嫉妬の方向も自分に置き換えてみると結構理解できるものもあり同情してしまうことも。
マリアとデヴィッドのきちんと手順を踏んだ恋の進み方が好きで、携帯を胸に挟み少女のように一喜一憂するマリアの姿が可愛くて仕方ない。
デヴィッドの優しい感じも好き。
しかし最後の展開は正直モヤモヤが止まらなかった。結末を観客にゆだねるのは全然良いんだけども。
みんなが好きなハッピーエンドとして解釈して良いんだよね?
デヴィッドがマリアに連絡しなくなり屋敷で顔を合わせたときもシカトしていたのはわざとで、マリアが思い切ってメイドを辞められるように、悲劇からのハッピーエンドへのどんでん返しを演出するための行動なのかな。
アンがマリアの事を彼に話したとき、その内容はうまく聞き取れないようになっていた。
でもあのときアンは持ち前の見下した目線を多く出して話していて、愛する人がこんな人と一緒に過ごしていてはいけないと危機を感じたゆえの一芝居だったのかなと。
ラストのマリアが歩いた先にたくさんのバラを持ったデヴィッドが待っていたらいいな。
なんて考えてひとまず自分のなかでハッピーエンドを作ってみるんだけど正直あまり心は晴れない。
連絡が来ない間、無視された時、マリアはひどく傷ついたと思う。
いくら最後に迎えに来てくれていたとしても、それまでの行動からズタズタになった自尊心の傷は結構深いんじゃないか。
的外れなサプライズをする男のようでどうにもイラついてしまうのは私だけかな…。
アンの意識に改善が見られず、ボブは結局若い美人にベロベロしてて気持ち悪いし。まあアンに関してはこれから色々なことに気付けるような予感が少しはあるけれど。
なんともいえない後味の悪さが残る作品だった。
影で人々をかき回し小説のネタにするスティーブンもちょっと気持ち悪い。
でも何なのあの腹立たしいほどの色気。髪型もファッションもパーフェクト。憎たらしいわ…しかし厄介なことに私はこの男が結構好きなんだよなあ。