「人間の悪い部分や心理をあぶり出した話」楽園(2019) まつこさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の悪い部分や心理をあぶり出した話
吉田修一原作・瀬々敬久監督の作品。
吉田修一の書く小説は面白いから次々と実写化されていくね。この映画も面白かった。
面白いけど暗い…暗いけど面白い、という感じかなぁ。ストーリーは、人間の嫌な部分でありでも人間だからこそ追い込まれた時に浮き彫りにされる行動が多くて…苛々モヤモヤするけど共感もしてしまう展開が多かった。田舎や村の閉鎖的な空間の悪しき習慣も炙り出されていた。都会も田舎も、良い部分も悪い部分も同じだけある。良い部分を引き出して良い雰囲気のいい感じなストーリーの映画も作れるし、今回のような作品を作り出すこともできる。そういう意味では怖い映画ではあったなとも思った。
でも、瀬々監督とキャスト・スタッフの力で良作へと仕上げられていた気がする。綾野剛と杉咲花の演技はやっぱり素晴らしいし、別の人が演っていたら作品の質の低下になっていたかもしれないからこのキャストで本当に良かったと思った。あと、村上虹郎の存在も私の中では大きかった。全体的に暗いジメ〜ッとした展開やシーンの方が多いこの作品の中で、杉咲花と村上虹郎のシーンだけは唯一の救いというか変な話癒しだった。この雰囲気に飲み込まれない2人の青春というフィルターを通した空気感が良かったなと…。
とは言え、最近、「愛していた人は犯罪者なのか」「信じていた友は犯罪者なのか」「信頼していた人間の嘘・裏の顔」のテーマの映画が増えてきて、ちょっとした飽和状態を感じてしまう…笑。そのテーマの作品の中では、吉田修一原作・李相日監督の「怒り」は群を抜いている、というか私の中で秀でている作品だなと思う。「大切な人を信じる」というテーマもいやらしい感じではなくすんなりと心に届くし、サスペンスとしての面白さやエンターテイメントも強くて、あの作品があるからある種他の同じようなテーマの映画が霞んでしまうのではないかと。特に今回、「怒り」を意識したような内容・予告・ポスター・キャストの「楽園」は同じ原作者といえど、比べるのはおかしいかもしれないけどどうしても「怒り」と比べてしまって、物足りなさを感じてしまった。
でも、瀬々監督が撮っているので、あくまで映画作品としての完成度は高かったです。