劇場公開日 2018年12月15日

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「集団と個人の混同が生む悲劇」マイ・サンシャイン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0集団と個人の混同が生む悲劇

2018年12月30日
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鑑賞方法:映画館

 アメリカの黒人差別はおそろしく根深い。綿花栽培の労働力としてアフリカから輸入されてきた歴史は我々も知るところであり、アメイジング・グレイスは讃美歌として夙に有名である。しかし差別の根深さは歴史だけに由来するものではないようだ。
 勿論おぞましい差別の歴史も人々の心に染み込んでいると思うし、差別してきた先祖を正当化したい気持ちもあるだろう。しかしそれらを凌駕するのが、既得権益が喪失するかもしれない危機感だと思う。同じ意味合いで、既に既得権益が奪われてしまったり、黒人と立場が逆転してしまった怒りもあるだろう。アメリカ全土に広がるそんな危機感や怒りの感情がなくならない限り、黒人差別はなくならない。
 一方で、差別されている黒人の中にはスポーツや芸能、政治や実業で成功する人もいるが、そうでない人々は貧しい生活から抜け出せず、中にはスラムやゲットーと呼ばれる地域に住んで常習的に悪事を働く人々もいて、黒人差別の格好の大義名分になっている。
 本作品は言わずと知れたロス暴動を、個人の視点から描いた問題作で、ソーシャルワーカーみたいな立場の主人公の黒人女性が庶民の普通の感覚のまま異常事態に巻き込まれていく様子が上手に描かれている。
 ロス暴動を簡単に説明すると、大勢の白人警官が寄ってたかって無抵抗の黒人男性を半殺しにし、その後の裁判で警官たちが無罪放免されたことで黒人たちの怒りが爆発して暴動に発展したものである。その背景としてあるのは、実は黒人差別だけではない。
 多くの社会問題に共通する根本的な間違いが、個人と集団の混同だ。すべての人間を個人として考えなければならないのに、自分たちの側だけ個人としての尊厳を主張し、相手の側は白人とか、黒人とか、要するにひとつの集団人格として扱うところに、本質的な問題がある。鬼畜米英という戦前の価値観も同様であった。
 この作品でも、黒人同士は互いに個人としての関係性を認識しているのに、白人は十羽ひとからげで白人として認識される。互いに相手をゴキブリみたいに捉えているのだ。しかし唯一、隣人であるダニエル・クレイグだけが、子供たちには白人や黒人という区別より前に隣のおじさんである。そこにこの作品の世界観がある。ハル・ベリーの演技もよかったし、奥行きのあるいい作品だと思う。

耶馬英彦