「政治家・総理の題材にしては余りにも内容が浅すぎる、それを俳優陣の演技で持ち上げている作品ではと」記憶にございません! komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
政治家・総理の題材にしては余りにも内容が浅すぎる、それを俳優陣の演技で持ち上げている作品ではと
(ネタバレあるので映画を見てから読んで下さい)
政治家や総理の題材の割に、扱っている内容が余りにも浅すぎると思われました。
現実を分かりやすくするのは構いませんが、野党の党首と外からガラス丸見えの部屋での不倫関係とか、新しい国会議事堂建設のために億単位の現金ワイロの受け渡しを日中の車中とか、まったくリアリティのないアメリカ大統領との交渉とか、普段の政治に何も興味がなく調べる気もなく、イメージでこんなものだろうと作られている志の低さがまず残念でした。
その上で黒田総理(中井貴一さん)のアクの強さは記憶をなくす前の場面だけで、あとはひたすら(鶴丸官房長官(草刈正雄さん)のいう一年生議員的な)”いいひと”の作品主張がほとんどを占める映画になっています。
例えば、この映画では消費税を増税する代わりに法人税を上げるという唯一と言っていい現実にも通じる具体的な改善策に触れられますが、当然、少子高齢化の日本で社会保障費は増大されていくので全体では増税は不可避ですが、法人税を上げれば雇用や給与に直結してその反論を受け、さらに反論が必要になり‥
つまり、政治家とは、必ず誰かが不利益を被る中で、どこかで決断をする職業であり、単純に善と悪に分かれる職業ではない訳です。
(それが民主主義の本質)
現実の中で善悪分けられない政治の世界(あるいは現実の世界)で生きている人からすれば、この映画のような(一年生議員的な)善と悪を単純に分けている世界の描き方は、心底、あなどれる内容の作品に成り下がっている、といえます。
そんなことで三谷監督いいんですか?‥とは終始映画を見ていて思われました。
もちろん、映画には、そう簡単に善悪分けられない現実を忘れるために、あえて世界を単純化して描き、映画を見ている間はきれいさっぱり現実を忘れる作用もあります。
ただ、そんな映画が実際の現実を具体的に変える力は持ちえないとも一方思われます。
しかし、中井貴一さん、ディーン・フジオカさんをはじめとする俳優の皆さんの素晴らしい演技によって、その単純化された作品にリアリティの持ち上げはされていました。
この映画は、善と悪が単純に分かれた世界の間を、俳優の皆さんの素晴らしい演技で埋めている作品だと考えれば、その良さは発揮されていた映画ではありました。
映画はやはり、一瞬のきらめきで現実の深層を突き刺す作品であって欲しい、と勝手に思っているので、そこを回避し続け現実から目をそらし続けて、ベタ過ぎるありきたりの着地で作られた今作は、(一年生議員的な)人の理解の入り口で終わっている気がしていて正直残念でした。