「総理大臣になりたい子供がまた一人でも…」記憶にございません! 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
総理大臣になりたい子供がまた一人でも…
まさしく本作のタイトルであった前駄作から支持率回復!
これぞ三谷コメディ…いや、映画に掛けて言うなら、三谷内閣!
今回は、記憶にございます!?
前代未聞、史上最低の支持率2.3%の総理大臣、黒田。
ある日、国民の投げた怒りの(?)石が頭にぶつかり、昏倒。
目覚めたら、記憶を失っていて…!
ユニークな設定で、らしさ全開。
SFやってみたい気持ちも分かるが、やはり人には向き不向きってもんがある。
三谷は政界を題材にしたコメディはこれが初…じゃない。
その昔、脚本を手掛けた田村正和主演のTVドラマ『総理と呼ばないで』というのがあった。
政界コメディ、不人気の総理…似通ってる部分もあり、懐かしく思い出した。
(『古畑任三郎』の後で視聴率振るわなかったが、このドラマ覚えている人、居るかなぁ~?)
黒田が病院のベッドで目覚め、ここは何処? 私はだぁれ?…で始まるのが面白い。見てるこっちも黒田と同じ現状に。
徐々に分かってくる“自分”。
どうやら僕は、記憶喪失。
記憶を失う前、僕はこの国の総理大臣だった。
ただの総理大臣じゃなく、“史上最低の”総理大臣。
傲慢、暴言、人を見下し、偉そうな態度…。
国民にはとことん嫌われ、周りからも信頼されておらず。
妻や息子との仲も冷え切っている。
ありとあらゆる酷い言葉で言い表せる事が出来るが、ズバリこの言葉で。
最低のクズ人間。
記憶を失って、それを知って、果たして良かったのか…。
話の展開は誰だって予想出来る。
最低人間だったが、良き人になろうと努力する。
最低内閣を改革し、よりよい政界に。
安直ではあるが、三谷らしい笑いを沢山散りばめ、家族愛などハートフルな要素や現実の政界へのチクチク皮肉や考えさせられるメッセージも込め、心地よくツボを抑えている。
中井貴一の腰低く、あたふたおどおど珍演が笑わせる。
ほんの少しだが、記憶を失う前とは別人のよう。中盤~後半の徐々になっていく理想の好人物。
名コメディアンっぷり、その演じ分けに、よっ大統領!…いや、よっ総理!と声を掛けたくなる。
この国や政治が悪いのは、総理一人の責任なのか…?
総理が悪けりゃ類は友を呼ぶの如く、周りも。
無能、クセ者、腹黒、権力を私利私欲する根源…。
幾らフィクションの映画とは言え、この国大丈夫か!?(※たまたま似通ってるだけで、架空の日本です)
これは一生に一度あるか無いかのチャンスかもしれない。
この国や内閣を、家族との関係を、そして自分自身をやり直せる…。
勿論、容易い事ではない。
それだけ横暴してきた。ないがしろにしてきた。最低だった。
分からない事もいっぱい。無理な事の方が多いかもしれない。
記憶ナシ=真っ白、ゼロからの再スタート。
ほんの少し、出来る事からでもいい。
過ちを認め、間違いを正し、変え、変わっていく…。
そんな実直な姿に感化されてこそ、人。
当初はニヒルでイヤミだった秘書官だが、かつての理想を目指そうと強力し、尽力する。
ディーン・フジオカが巧演。常に総理をサポートする小池栄子も好演。
政界に敵は付き物。“影の総理”である官房長官、草刈正雄も憎々しい存在感。
豪華キャストの個性的でコミカルなアンサンブル。
本当にこういうのが見たかった思わせる、“三谷ワールド”!
…が、
話は面白く飽きさせず進んでいくが、伏線貼られよく練られたストーリー展開ではなく。
笑いもゲラゲラではなくクスクスで、もっと洗練されたストーリー展開で大笑いを期待したら少々物足りないかも。
でも今回はコメディなのはコメディだが、それ以上にメッセージ性やエールこそ感じた。
元々黒田は、総理として素質があったのかもしれない。
やれば出来る。
…いや、これは言い訳に過ぎない。
権力や自分の愚かさや怠惰に溺れ負け、何もしてこなかっただけ。
やる事や問題は山積み。
いい国を目指すって、大変。
改革はこれから。
この描かれ方が良かった。
今度こそ、この黒田総理に期待と希望を持てる。
個人的に、終わり方も良かった。
ある人物の台詞。「総理大臣になりたい」
子供たちがなりたい将来の夢に、総理大臣や政治家が消えて久しい昨今…。
今の子供たちがなりたい将来の夢ランキングの上位に、ユーチューバー。
ユーチューバーって…、大丈夫かこの国!?
それは誰も政治に無関心で、政治家を信用してないって事。
政治家どもよ、重く受け止めろ。
関心を示し、理想を追い求め、なりたいと思わせる子供がまた一人でも。
そんな総理大臣や政界、国を目指して。
人を「リスペクト」する時代。
人を「敬う」時代は終わった。
敬うことを知らないのに、なぜ、政治家になりたい子供が増えるだろうか。
揚げ足ばかりとられて、汚い言葉で、バカ扱いされて感謝の言葉ももらえないような政治家になろうとは、なかなか子供には思えない。