「三谷幸喜ではなく、中井貴一が面白い。」記憶にございません! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
三谷幸喜ではなく、中井貴一が面白い。
最近はちょっと三谷幸喜を避けていたところがあって、今回も目当ての映画までの時間合わせのつもりで、ほんの思い付きで観ることにしたのだけれど、なんだかんだでやっぱり三谷幸喜は面白いなと、普通に思わされた。
いや、今回の映画に関して言えば、三谷幸喜が面白いというよりもひたすら中井貴一が面白かった。絶対アドリブ満載だっただろうことが想像つく彼の喜劇演技が終始面白く、「記憶を失った総理大臣」というお題で中井貴一が楽しんでいるようなそんな印象さえ受けた。
一方で、三谷幸喜が狙いすまして仕掛けた笑いに関してはどこか上滑りを感じないでもなく、中井貴一の演技が三谷幸喜の脚本を喰っていたように感じられた。
政治家のお馴染みの答弁「記憶にございません」から発想を飛ばして本当に記憶を失った悪徳政治家を主人公にした喜劇、という三谷幸喜の着想の素晴らしさは流石だと思うのだけれど、ただそこから描かれる物語が、悪徳総理が改心して正しい政治を取り戻す、という「いい話」風に持って行ってしまうのが、なんとも平凡だなと思わずにいられなかった。着想と設定は最高だけど、そこからの話は実はかなり凡庸。
とはいえ映画館は笑いの渦で、やや年齢層の高めな笑い声がよく響いていました。でもそれも少しわかるなと言う気がした。全体的に古臭いというか、なんだか話が現代っぽくないというか・・・。
それがこの映画の時代背景に依るところなのか(登場人物全員ガラケー問題?)、あえて狙ったことなのか、単純に三谷幸喜の感覚が古くなったのかは分からないけれど、俗にいう「M3・F3層」向けの匂いが漂っていて、どうも私にはしっくり来ないのを感じていた。
前までは三谷幸喜大好きだったんですけどね。前妻の女優さんと別れたあたりからなんかね。それでいて今作で石田ゆり子の役名を「聡子」にして、中井貴一に復縁の台詞を言わせる気持ち悪さったらね。なんでわざわざ「聡」のつく名前にしたか。無意識にしたって気持ち悪いです。ここが引っかかったのって、私だけか・・・?