劇場公開日 2019年9月13日

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「シェイクスピア級の大傑作」記憶にございません! アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0シェイクスピア級の大傑作

2019年9月14日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

知的

「記憶にございません」という台詞は、1976 年に起こったロッキード事件の際に、国会で証人喚問を受けた何人もの証人たちが、「覚えていない」という返答をするのに使った言葉で、当時の流行語となった言葉である。脚本家の三谷幸喜は、この言葉からインスピレーションを受けて、本当に総理大臣の記憶がなくなったらどうなるか、というアイデアで書き始めたものであろう。秀逸なアイデアを映像化して見せてくれただけではなく、数々のパロディで爆笑を呼び、なおかつしんみりさせてくれるところもあり、さらには観客をも騙す壮大なトリックが仕掛けてあるという大変な名作であった。

この作品の成否は、まさに脚本そのものにある。一辺倒なお笑いや、予定調和のストーリーでは現代人の本心からの笑いや、共感や感動を呼ぶことはできない。全編に仕掛けられたサービス旺盛なくすぐりや笑いの仕掛けは、実に巧妙である。政治ネタに詳しい人も詳しくない人も、それぞれのレベルに応じて笑えるように作ってあるのには非常に感心させられた。しかも、登場人物それぞれの価値観や振舞いが非常に現代的であり、不倫や引きこもりや家庭内不和といった道具立てもよく見るものばかりである。こうした世界で見る者の気持ちを思うままに操る三谷の手腕は、もはやシェイクスピアの域に達したと言うべきかもしれない。映画でなく、これをそのまま演劇としても上演できそうなほどコンパクトに書けている。

役者はそれぞれ演技の幅の広さを見せてくれていて、主演の中井貴一は流石であるし、草刈正雄の上手さと凄みは流石であった。ディーンフジオカや小池栄子、石田ゆり子と斉藤由貴らもそれぞれ芸達者なところを見せてくれていた。木村佳乃の英語の発音は完璧であったし、吉田羊のような野党議員はいかにも実在しそうであった。田中圭は、これがあの「あな番」の翔太くんと同じ人かという引き出しの多さを見せてくれた。意外な出演者にも驚かされた。中井貴一の昔の恩師を演じていたのは山口崇で、何と御歳 82 歳。かつてはダンディなイケメンでタイムショックの司会者を務めたほどの人が、まるで印象が変わっていたのには本当に驚いた。特殊メイクでも使っているのかと思ったが、どうやら素の姿らしい。通訳を演じた宮澤エマは宮澤喜一元首相のお孫さんであるなどのサプライズも豊富だった。

音楽は、三谷作品常連の萩野清子さんで、軽妙で邪魔にならない音楽をつけていた。それぞれの役者の底力を引き出していた三谷監督の演出も見事であった。お勧めの名作である。
(映像5+脚本5+役者5+音楽4+演出5)×4= 96 点

アラ古希