「やはらかきボルゾイふたつうつむきて 人の弱さに目をふせており」ラストレター きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
やはらかきボルゾイふたつうつむきて 人の弱さに目をふせており
【最後の手紙】
娘への「遺言」は、卒業式の式辞の原稿用紙一枚だけ。
こんなにもよれよれになった古い原稿用紙が、未咲の生涯の痛ましさを倍加させる。
本当はこの「紙片」を、未咲は初恋の人 乙坂(=福山雅治)に渡したかったのだろう。その思いを、薄幸の母は はかなく夢に託して、娘へと遺していった。
仏間にて、あの原稿用紙の存在まで突き付けられてしまえば、福山には衝撃が過ぎただろう。
だからあの「遺書」が娘の手元にだけ残ったことは、福山をかろうじて救ったと言えそうだ。
届かなかった手紙
なりすましの返信
親子二代でやってはいけない悪ふざけをする血筋なのかい?ん?
しかし高校生たちはこの「盗み読み」と「嘘の文通」から、彼女たちは少女から大人への脱皮を促がされたようだ。
監督は女の子を丁寧に撮ることにずば抜けている。
思うのだが、
いつも美しき姉の陰になっていた妹=裕里(森七菜)は、どれだけ姉を嫉妬し憎んだことだろう。
姉を妨害し、姉の不幸せを内心喜んだって仕方ないほどだったのだ。まだ高校生の幼い妹だもの。
そしてもう一人、人生二度に渡って偽手紙に翻弄されてしまった乙坂=福山も、憤怒の仁王と化しても構わなかったのだ。
だから、
4人が交わす手紙の悪戯は、その結末が破壊と殺意を招いても仕方ないほどのギリギリの稜線に立っている。
ところがだ、
彼らが、憎しみと報復の側には転落しなかったのは、それぞれすべての出演者が相手の幸せを祈る清い心の持ち主であり続けたことに依るだろう。
(あのトヨエツでさえそうだ。ダークな彼の悔悟の横顔は、胸を刺す)。
福山、男渾身の筆致と、それを自死の極まで預かり守る女の真心。
出す手紙ももらう手紙も、それはそれは尊くて、捨てることあたわずだ。
ストーリーに負けない配役が、秀逸。
心情に同期して揺れるカメラがまた秀逸。
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【文通】
僕の妻だった人は、筆無精の極みでしたね。僕が書き送った膨大なラブレターは?彼女は再婚していますしゴミ箱でしょうね(笑)それでいい。
奇異かもしれないけれど、僕は別れた妻のお父さんとは、以降も長く文通しています。お宅にも年に何度もご飯に伺います。
これって、変ですか?でも一人の女性を介して出会ったかけがえのない新しい関係なのです。
「愛娘」として彼女を見守る父親にして、かつては僕の義父であったこの人生の先輩に、僕は続けて便りをなすのです。
それぞれが幸せでいてほしいと願う僕と、そして義父から届く復信と。
双方からの手紙のやり取りは、もう十数年の往来が続いています。
お義父さんは国語の先生なのです。僕の短歌の添削をしてくれる師匠です。
こういう手紙があっても良いと思っています。
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【手紙道】
封筒と便箋を選び、万年筆を決め、時節の切手をチョイスして、そうして言葉を選び取って相手に書き送る「手紙」は、もう時代遅れの儀式のようだと笑われるかもしれないけれど、
あの劇中の福山の著書「未咲」も、遠野未咲を知る人たちの元に、永く迷った“宛先不明の手紙”として、ようやく配達された私信のようで。
「確かにお便り拝領つかまつり候」と、それぞれが本の見開きに福山のサインを求めて、そして映画は終わる。
泣き崩れることはなんとか堪(こら)えて、スクリーン上では乱れなかった福山雅治。
代わりに僕がしこたま泣かしてもらいました。
言葉のみ 風に託して送らばや
軽ろき便箋探しおり、われ
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きりんさん
コメントありがとうございます。
憎しみか慈しみか、、、この映画がギリギリのラインで美しい物語として完成されている事が、このレビューを読んでわかりました。
ご無沙汰しておりました。コメントありがとうございます。
きりんさんの心のこもったレビューには頭が下がります😅
こういう素直な見方、大事だと自覚してます。
思い返した時自分的に、この作品どんなんだったかなぁと思えるレビューに書くことを真ん中にしているので、どうしてもあんな表現しか出来ず。
それもこれも含めて映画鑑賞を楽しんでます😊
きりんさん、毎度どうもです。
文通はしていたものの筆不精の俺・・・とにかく会ったほうが早い!などと思っていたけど、今じゃラインでさえ鬱陶しくなっております・・・あのスピードについていけないんです。
「ほほにキスして」は俺も歌えます♪
きりんさん
きりんさんのレビューを読んで、ジワッときました。
大好きだった奥様へのお手紙の事、愛娘さんへの愛、義理のお父様とのお手紙のやり取り、きりんさんと義理のお父様との優しい関係が素敵ですね。
この優しさ溢れる作品が、誰よりも沁みられるでしょうね。
素敵なレビュー、読ませて頂きました。