「岩井監督の映像を堪能。」ラストレター yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
岩井監督の映像を堪能。
『Love Letter』以来25年ぶりに岩井俊二監督作品を映画館で鑑賞しました。
やはり映像は監督のこだわりが随所に現れていて、非常に楽しめました。
本作だけで捉えれば、果たしてここまで物語の筋を複雑にする必要があったのかな?と思わなくもなかったのですが、学生時代の記憶、手紙、文通といった要素を使って作品世界を構成する、という、『Love Letter』以降岩井監督が追求してきた主題の変化がうかがい知れて、一種感慨深いものがありました。
豊川悦司と中山美穂の共演という点でも、『Love Letter』との強い繋がりを感じます。ただこの二人、本作でも非常に人間味のある役どころだったので、もう少し物語に絡ませて欲しかったな、とも感じました。
改めて映像を映画館で観て、岩井監督の映像の美しさに心打たれました。
岩井監督の映像は、決して「きれいな風景を撮ったらきれいに撮れてしまった」といったものではなく、非常に細かい計算の上に成り立っています。
例えばホテルでのパーティーの場面、日陰を移動する場面など、それぞれ色味が異なるはずの映像で、あえて色味を調整しすぎず、できるだけその場の光を取り入れています。色味を調整しないと、昔のホームビデオのように場面ごとの映像的な一貫性がなくなってしまう危険性があるため、破綻をぎりぎりで回避するためには、かなり神経を使って個々の映像を調整していく必要があります(逆に調整しすぎると、場面ごとの光質が表現できなくなり、平板な映像になる)。岩井監督の一見自然に、美しい映像の背後にはこうした細やかな心遣いがあるんだな、と実感しました。
また、人物の顔に直射日光を当てない、という点についても徹底しています。木漏れ日の差し込む空間で、人物があちこちに動き回ったり、日差しの差し込む玄関の入り口に人物が佇む、といった情景でさえ、カメラの位置、画角、カット割りで人物の顔に光を当てず、最も肌が美しく映るように捉えています。これは神業だな、と感銘を受けました(二、三のやむを得ない例外はありましたが)。
本作鑑賞後、改めて『Love Letter』も見直したくなりました!