「もう一度、美咲に宛てて書く、手紙のこと。」ラストレター bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
もう一度、美咲に宛てて書く、手紙のこと。
室内の「画」が最高です。ホントに見とれた。乙坂が遠野家を訪れた場面の陰影。喪失の哀しみを共有する3人。言葉を失う颯花は、暮れなずみ行く夏の午後の暗さの中に。美咲の本心に触れて絶句し、後悔しながらも、書く意欲が再び芽生え始める乙坂の背景は、少し明るい外を背景に。母が、心のどこかで待ち続けていた乙坂を前にして、哀しさと嬉しい気持ちが混ざり込む鮎美は平坦な感触の浅い陰影。撮影監督は神戸千木さん。ごめんなさい、存じ上げませんでした。が、前半部のドローン多用は気になりましたが、人物の撮り方が、最高に好みです。同窓会を出て行こうとするも途中で足を止め中を伺う松たか子さん、バス停でアドレスを交換する二人の距離が少しづつ狭まって行くワンカット、飲み屋での豊悦の薄暗さ。なんか、その他諸々の色んな場面で素晴らしさを感じました。
映画の方は、松たか子さんパートと福山雅治パートに大別できます。コミカルでクスクスしてしまう松たか子さんパート。いや、「夢売るふたり」で松たか子さんの演技に衝撃を受けて以来、俺の中では日本最高の女優さんなんですけど。やっぱり彼女の芝居は別格です。天然入ってる可愛すぎるオバサンですよ。場外では「みちのたびへーー」なんて歌声も流れてるし。全くもう、どうなってんの、彼女w
福山パートは泣かしに来る、かと思いきや。こっちは、小説家としての再生パートで、お涙頂戴には来ません。ちょっと予想外。
阿藤の意地の悪い、しかし辛辣な言葉に打ちのめされた乙坂は、閉鎖された母校を訪れ、美咲と裕理の娘と偶然出会い、美咲の実家を訪れる。美咲に送り続けた手紙が、美咲の宝物であった事を聞き、阿藤の悪魔の言葉の呪縛から解放されます。卒業式の答辞の添削をした日、小説家になれるよと褒められた思い出。その言葉通りに小説を書いた自分を、美咲は喜んでくれたのか。懐かしんでくれたのか。いつの日か、かつての恋人だった乙坂が、自分の元に現れてくれることを夢にみていたのか。誰にも分んないよ、今となっては、そんなこと。だけど一つだけ、乙坂は確信したことがある。書き続けることが、彼女への供養になるのだと言うこと。彼女の願いを、叶え続けることになるのだと言う事。
娘の鮎美に宛てた封筒の中には、答辞の原稿が、折りたたまれて入っていました。何度も、何度も、何度も開いて折りたたんでを繰り返した後の、ボロボロな状態で。
Last Letter は、まだ、この世に存在しない。
これから。乙坂が書くのだから。また、美咲に宛てて。
って事で。
クスクスから滲みぃぃぃに転じる、豪華キャスト使い切りの岩井作品。観終わってから、地味に噛みしめ直してます。正直言いますと、俺、広瀬すずが大嫌いなんですけどw これは良かったです。ちょっと吹っ切れて来ましたか?
良かった。地味に。
ちょっと眠くなったけど、もう一回見ても良いと思うくらい。