劇場公開日 2019年6月28日

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「それでいいし、それがいい。」スパイダーマン ファー・フロム・ホーム ウシダトモユキさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5それでいいし、それがいい。

2019年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

面白かった!!

いろんな意味で「さすがスパイダーマンだな!」と思う。

ヒーローとしてのアクションの気持ち良さ、ひょうきんなキャラクタ、物語のポップさ、ヴィランのケレン味、ヒーローと一般市民の身近な距離感。“ヒーロー映画”の題材として、やっぱり群を抜いて優れたアメコミヒーローだと思う。

マーベル・シネマティック・ユニバースのフェイズ3(第3期)の締めくくりとしてスパイダーマンを置いてるのも、個人的にすごく納得感があって嬉しかった。

『エンドゲーム』は超人たちの神話のマクロな決着として、この上ない満足度で壮大なフィナーレを飾ったと思ってる。

それに対して『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』は、ひとりの英雄のミクロな成長を描き出す。

この対比はキレイでしっくり来るし、これから先の希望も感じられる。

「これから先の希望」といえば、MCUフェイズ4から先の展開についても希望が感じられた。

予想というよりも希望だけど、MCUの今後は「アベンジャーズ集合ありき」ではなく「単体ヒーローものそれぞれを充実」させていく必要があると思う。もう「集合によるカタルシスの貯金」は使い切ったと言ってもいいかもしれない。これまでのMCUは「インフィニティ・ストーンを巡る物語」という1本の太い軸を通してシリーズを紡いできたけど、今後はもう少し細め短めの軸を何本も併行させて、時おり交差させるという方向性を執るんじゃないかと思う。「複数のヒーローが1本の映画に集合する」のではなく、「1つの事件を複数のヒーロー映画で別視点で描く」なんて試みも面白いかもしれない(コミックスではシビルウォーとかが共通の出来事として別作品で語られたりしてる)。「2代目キャプテン・アメリカはオレだ!」という名乗りを別作品の別ヒーローにやらせて、集合映画で決着つけるなんて展開もあったら楽しい(妄想)。

いずれにしてもこれまでのアベンジャーズは「遠い神話」にしてしまって、キャラを登場させずとも、劇中のセリフや小ネタなどの文脈で語られる程度でいいと思う。もう次作への伏線とか、前作からの回収とか、1本のヒーロー映画を観たり語ったりするために、その背景となる数十本の歴史を、いちいち意識を強いられるのはとうに限界を超えていたし、集合モノの辻褄合わせのために単体映画が縁取られていくのも本末転倒になっていく。1億人のアベンジャーズファンを解散させても、1千万人のファンがつく単体ヒーロー映画をまた、数十本作っていけばいい。

スパイダーマンをフェイズ3の締めにもってきたのは、そういうMCUの決意表明のように僕には思えた。

今回登場するミステリオというキャラクタの立ち位置も、「神話的超人であるアベンジャーズ」の自己相対化であるように感じた。ちょっとエヴァQを思い出したな。

そんなリクツはどうでもいいとして、本作とっても面白かったし、良かった。

恋して、ヒーローして、ドタバタやって。ああ、やっぱスパイディはこうじゃなくっちゃ!!みたいな。

僕にとっては本作の悪役は、恋敵のブラットだった。倒せ!死ねッ!!

好きな相手がいるグループ行動で、「隣の席に座りた〜い!」とか、「ふたりきりになるチャンスがほし〜〜い!!」とか、「喜んでくれそうなプレゼントを最高のタイミングで渡したぁ〜い!!!」とか、「もうとにかくチューしたいぃぃ!!!!」とか、わかりみ過ぎて鼻血が耳から出そうだった。

だからもう、NYの街をスパイダーウェブで滑空する場面は「ア・ホール・ニューワールド」が頭の中で流れたよね。

世界人類を救う超人ではなく、下町の英雄。

それでいいんだ。いや、それがいいんだ。

ウシダトモユキ(無人島キネマ)