劇場公開日 2020年3月20日

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「暴力の歴史」ナイチンゲール 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5暴力の歴史

2020年7月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

オーストラリアがイギリスの植民地であった時代の物語だ。原住民のアボリジニに対する差別や、女性差別が描かれる。主人公はアイルランド人の女性であるが、ここで歴史を押さえておく必要がある。この地域を支配していたのはイングランド人だ。アイルランド人は同じ白人であってもイングランドから差別される対象だった。主人公が囚人であることもポイントだ。オーストラリアに入植した白人の大半は、最初のころは囚人たちだった。オーストラリアは流刑地だった。主人公は女性という点で弱者であり、島流しにあった囚人としても弱者である「二重の弱者」だ。
これはそんな彼女が夫と子供を殺された復讐を果たす物語だ。道案内にアボリジニの青年を連れていく。弱者同士の連帯も描かれるが、安易な形ではない。アボリジニにとっては彼女もまた侵略者でもある。2人の奇妙な緊張関係が物語を引っ張る原動力となっている。
全編強烈な暴力が描かれる。しかし、これが人類史なのだ。どうしようもなく人類の行ってきたことだと強烈に印象づける。

杉本穂高