「クロウタドリの導き」ナイチンゲール KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
クロウタドリの導き
凌辱と殺戮を受けた女は、恨みだけを力に歩み続ける。
この映画、ただの復讐劇にあらず。
バイオレンススリラー、ロードムービー、歴史劇、異民族交流、成長譚。シンプルな本筋にいろいろな要素とドラマが絡み合い、スリリングに面白く仕上がっている。
久しぶりに心の底からキツくなる乱暴描写を観た。
クレア一家に対する暴力的支配も黒人のアボリジニたちに対する扱いも、「差別」なんて言葉では表しきれないほどに凄惨。
クレアの怒りと悲しみに身を浸し、アボリジニのビリーの叫びに耳を傾ける。
この扱いが昔当たり前のように在ったことだなんて。
将校たちが全方面に徹底して悪者でいてくれたのがまだ救いだった。憐れみなんて抱きたくもない。
人間を人間とも思わない言動の一つ一つにショックを受け、ずっと息苦しかった。
一切の慈悲も無いその所業は恐怖感を煽り、ホラー的な苦しみを味わえた。
直接的な暴力描写はそこまで多くはないものの、精神的な追い詰められ方が半端じゃない。そしてナチュラルに表れる残酷描写にもドキッとすること数回。
全編通してシリアスな映画だけど、時折フッと気を抜けるシーンがあったことが嬉しい。
ビリーとクレアの、華麗に伏線回収してみせるショートコントのようなやり取りが面白かった。
徐々に詰まっていく距離と目的の共有化、それぞれの価値観が寄り添っていく様が好き。
切なくやりきれなく、悲しく辛く怒りを抱く作品である。
しかし、たしかな希望を感じられる作品でもあった。
この映画の中で感じる負の感情は、きっと正しいものだと思う。
歴史から学び、間違いを直視して顔をしかめることで、自分の意識にも繋がる。
とても面白い映画だった。
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