「タスマニアンデビル」ナイチンゲール カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
タスマニアンデビル
イギリス入植時代のオーストラリアはタスマニアが舞台。リベンジものですが、予告ストーリーにあるようなバイオレンススリラーじゃ全然ないです。スリラーと謳ったほうが興行として有利だと思ってしたとすれば、作品に対する冒涜ですね。
アイルランド人の女性(クレア)が主役です。が、ビリー(新人俳優のアボリジニ男性)も立派な主役ではないかと思われます。恥ずかしながら、この映画を見て初めて、アボリジニに対する迫害の酷さを知りました。25年前にシドニーに行ったことはありますが、アボリジニは個性的なアーティストなんだぐらいの認識しかなく、アイルランド人に対する差別は知っていましたが、タスマニアが流刑地で、奴隷同様の扱いであったこともあらためて知りました。
ビリーは両親、兄弟、叔父をイギリス人に殺された奴隷です。森で老人と貧しい暮らしをしています。自分をクロウタドリ(黒いオウムに見えました)といい、アメリカ先住民と共通する自然との一体感を感じます。まじないをしたり、薬を作るところはやはり、シャーマンですね。川に流されたはずのクレアが大木の根元で目覚め、黒いオウムを追って行くとビリーに逢える場面は神秘性に溢れています。頻繁に描かれるクレアのPTSDによる幻覚シーンも半端なく、熱演もさることながら、悲しみがのし掛かって来ました。母乳が服に滲んで、痛そうで、かわいそうでした。
イギリス人将校が本当に悪いやつで、殺されたぐらいじゃ、全然スッキリしません。やつは本当のタスマニアンデビル。そういう意味でも復讐ものとしての要素も軽い感じがします。バイオレンスは悪役が95%以上です。
クレアの歌うアイルランド民謡とビリーの歌と踊りが素晴らしかった。
二人を匿ってあげた白人の老人のやさしさにビリーが涙しながら、それでもこの自然と大地はわれわれのものだと訴える場面に目頭が熱くなりました。
下手な歴史書より映画のほうが信頼できる監督なら真実に近いのかもしれませんね。
凄い映画を観てしまったという感じです。しかも、女性監督です。⬅️偏見とかではありません。誤解のないよう。