「運命の皮肉、現実のなかに秘められた真実」ある画家の数奇な運命 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
運命の皮肉、現実のなかに秘められた真実
1930年代後半、ナチ政権下のドイツ。
幼いクルトは、愛する叔母エリザベト(ザスキア・ローゼンダール)の影響で芸術に目覚める。
エリザベトが愛した美術は現代美術。
ナチスによって「退廃芸術」との烙印を押されたものだった。
若いエリザベトは、その繊細さゆえに、時折、錯乱することがあるが、精神錯乱はナチスドイツによって否定されたものだった。
精神病院に隔離され、ついにはガス室送りになってしまう・・・
といったところから始まる物語で、ここまでがおおよそ3分の1。
この後、終戦後、東ドイツの美術学校へと進学したクルト(トム・シリング)は、叔母に似たエリー(パウラ・ベーア)と出会って恋に落ちるが、エリーの父は、愛する叔母エリザベトをガス室送りにした張本人だった・・・と展開していきます。
中盤のクルトとエリーの恋愛譚は、ややコミカルな調子で演出しているので、このあたりは息抜き的に鑑賞するといいでしょう。
社会主義のお仕着せが強くなり、結婚したクルトとエリーは西側に脱出。
自由な中で生来の芸術家魂がクルトに湧き上がってくる物語と、元ナチス医官のエリーの父(セバスチャン・コッホ)にも追手が迫るという物語と、名家の血脈を守るために堕胎手術をされた影響でエリーとクルトの間に子供ができないという物語が三位一体的に繰り広げられます。
ナチス時代の影響が色濃く物語に影を落とす・・・という内容なのですが、かなり大味な感じで、観ている間は面白いのですが、観終わって何日か経つと印象が薄れてしまいます。
ただし、出色のシーンが後半にあります。
内なる芸術魂の目覚めたクルトが描く絵(叔母エリザベトと幼いクルトの写真の模写)の上に、スライド投影でエリーの父の顔が二重写しになるシーン。
運命の皮肉、現実のなかに秘められた真実・・・
そういうものが一瞬で表現されていて、素晴らしいシーンです。
とはいえ、全体的には大味な映画といったところでしょうか。