「画面を支配する"グレーのグラデーション"」ROMA ローマ MPさんの映画レビュー(感想・評価)
画面を支配する"グレーのグラデーション"
広い邸宅のリビングからキッチン、階段を上った先にある個々の部屋、洗濯物を干すベランダ。ゆったりと動くカメラが映し出すのは、外からの光の案配や、前後の位置関係によって微妙に変化する"グレーのグラデーション"だ。ただ色彩を排除することで色を想像させるのでもなく、モノクロの美しさを単純に探究するのでもなく、これほども豊かな映像表現というものに久しく出会ってない気すらする、撮影監督、アルフォンソ・キュアロンの戦略的カメラワークに思わず惹きつけられる。そして、一人のメキシカン・ネイティブの家政婦の体験をベースに綴られる、廃れゆくブルジョワ家族の儚さと悲しみに心が震える。メキシコの近代史を描きながら、この映画が国籍や人種を越えて人々にアピールするのは、誰の胸にもある懐かしい我が家の記憶を呼び覚ますからだ。時は移り、記憶は薄れ、国家は分断され、国境に壁が建設されても、家族という最小で最強のコミュニティは存在するはず。監督、キュアロンの祈りのメッセージは、今、ストリーミングを通して世界中に伝播中である。映画はあくまで"どう作る"であり、"どう見せる"ではない。筆者はキュアロンの意見に賛同する。
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