劇場公開日 2019年3月9日

「家政婦が見た1970年のメキシコの中産階級」ROMA ローマ HALU6700さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5家政婦が見た1970年のメキシコの中産階級

2019年3月16日
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鑑賞方法:映画館

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本作品は、第91回アカデミー賞にて、外国語映画賞、監督賞、撮影賞の見事3冠に輝いた作品ですが、動画配信サービスのNetflix独占配信の映画でしたので、私にはおそらく縁がない映画だと思っていましたが、アカデミー賞受賞効果なのか、有り難い事に、急遽、3/9(土)より全国のイオンシネマの48館にて、配給会社を介さずに、直接に劇場で公開される事が決定し、その中でも、イオンシネマ京都桂川では、3/14(木)までは、ちょうどULTIRAスクリーンの音響設備の良い劇場で公開していましたので急いで鑑賞に赴いてきました。

イオンシネマさんには、感謝の気持ちでいっぱいです!

尚、その後、イオンシネマの他の劇場を含め、全国で全77館での拡大上映が決定したらしいです。

※京都府内では、イオンシネマ京都桂川、イオンシネマ久御山、イオンシネマ高の原の他、今月末より、出町座でも上映が決定しました。

いきなり長い廊下のタイル張りの床の排水口に水が流れていく様子をただひたすら映し続けるオープニングで始まったので、これは、作家性に富んだ芸術作品かと、やや身構えてしまいましたが、結論から言いますと、好みは分かれるかも知れないですが、押し付けがましさもなく、決して難解な映画でもなく、メキシコシティのローマ地区の中産階級の白人家庭に住み込みの家政婦として働く主人公クレオの1970年からの激動の1年間を切り抜いた様な作品で、彼女の心の動きを、静かに丁寧に活写した、実に、心に染み入る作品でした。

また、作品内に登場する男達が皆、薄情な人物像ばかりで、そういった男性からの女性蔑視もさることながら、舞台は1970年ながらもメキシコ人の中における先住民族に対するマイノリティ差別の側面をも盛り込んだ今日的なテーマも内包した作品でした。

劇場のULTIRAスクリーンの音響が良かった事も奏功したのでしょうが、何よりも、何気ない生活音・環境音の使い方が秀逸でした。

カメラワークにつきましても、アルフォンソ・キュアロン監督自ら脚本も撮影も行ったらしく、ほぼ基礎的な古典的な長回しの撮影手法で撮っていたようでしたが、その中でも、山火事・病院内での地震のシーン。また学生デモのシーンや海辺の波打ち際のシーンでの横移動の長回し撮影には感嘆しましたが、あれは最近流行りのドローンを使った撮影手法だったのでしょうか。

デジタルでいくらでも鮮やかに仕上げられるこの時代に、あえてモノクロで表現していましたが、色が着いていたらグロテスクな表現もあったし、約半世紀前という懐かしい風情を感じさせる点でも、モノクロ映画にしたのは実に効果的な手法にも思えました。

また光の射し方をも考え抜いたカメラワークによって観る側に色の想像力をかき立ててくれていて、逆にカラフルにも感じましたね。

作品中に登場する、いろんな意味合いで自らの棒を振り回していたフェルミンという青年の薄情さが腹立たしくて仕方なかったでした。

あのボカシのない全裸での棒術の披露シーンがあるからR15指定になっていた映画なんでしょうけれど、別にあのシーンはパンツ一丁でも違和感なかった様な気もしましたが、あえて全裸にさせるのには、やはりアルフォンソ・キュアロン監督なりの強い拘りなのでしょうね。

ソフィアの夫であり雇用主のアントニオも薄情な人物像でしたが、登場する男性陣が全てクソッタレなのにも困りました。

因みに、同じクソでも、犬の糞も半端なく出てきますので、Netflixの動画配信サービスなどでお家でご覧になられる際には、お食事中の鑑賞には不向きなので要注意。

映しているものは犬の糞など汚い物も多かったですが、撮影賞も相応しいほど構図や映し方が綺麗な映画でした。

辛い場面もありますが、クスクスと笑える場面も多く、フォードのあの年式の大型車ギャラクシーの車庫入れや荒っぽい運転に笑いを誘い、またアルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』のセルフパロディの劇中映画『宇宙からの脱出』には思わずニヤリとさせられました。

ただ、そんな中、この作品のポスター写真にもなっている、クライマックスの浜辺の場面には思わず胸が詰まりました。

子供たちを必死で助けたクレオが、不意に漏らした言葉。何故、急に今に言うのか、と一瞬驚きますが、子供たちの命が危険にさらされる中、恐怖と共に、湧き上がってきた感情だったのだと分かります。

監督は、誰にも台本を渡さず、撮影の前に台詞を伝えていたらしく、主演のクレオ役のヤリッツァ・アパリシオは、これまで演技未経験だというから驚かされましたね。

生活音・環境音の使い方などが凄く上手かったので、思わず1970年代のラテン音楽を19曲収録した、この映画『ROMA/ローマ』のオリジナルサントラ盤も購入してしまった次第です。

私が観たイオンシネマ京都桂川の劇場は、8番ULTIRAスクリーンの音響設備が凄く良い箱での上映でしたので、動画配信サービスでなく、細やかな音まで再現してくれて、且つ、迫力ある映像美を劇場で堪能出来て本当に良かったです。

私的な評価としましては、
昨今のアカデミー賞には、実に合った作品だとは思いましたが、実話ベースの社会派作品が作品賞を受賞する傾向にある中、Netflixが配給権を持つ映画と言う点で、不利な上に、更に、実話ベースの、あの天才黒人ピアニストとイタリア系白人の用心棒のロードムービー『グリーンブック』に比較するとエンタメ性に欠ける点で、作品賞は逃したのかなとも思ってしまいましたが、個人的な好みの問題もあるかと思いますが、実にアルフォンソ・キュアロン監督の私小説的な作品でもあり私は良かったと思いました。

また、撮影賞については、ずっとシネマスコープの横長の画面を活かした映像が続いた後に、冒頭のシーンとリンクする最後の場面では、広い空に向かっていく階段の縦方向の演出を巧みに使っていて、とても印象に残るシーンでしたし、順当な受賞だったかなとも思いました。

従いまして、五つ星評価的には、ほぼ満点の四つ星半★★★★☆の(90点)の高評価も相応しい映画だとも思いました。

もしもお近くに上映館があれば出来る限り劇場でご覧になられる事をオススメします。

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HALU