配信開始日 2018年11月6日

「アンブローズビアスのアウルクリークみたいな映画」バスターのバラード 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0アンブローズビアスのアウルクリークみたいな映画

2020年7月11日
PCから投稿

「あっけらかん」という日本語の意味を調べてみたら、次のように書かれていました。

『常識的、道徳的に考えれば当然あるはずの屈託、ためらい、恥じらいといった感情がなく、平然としているさまを表わす語。』

この映画にピッタリくる言葉です。

どの章も無情で即物的でアイロニカルです。でも、なんとなく空気感は陽気です。そしてあざやかです。

食事券の章で馬車が高架橋に寄ります。石を落とすので「ああ落とすんだなあ」とは判るのですが、それが「あっけらかん」と処理されます。
興行主がニヤニヤしながら近づいてきます→四肢のない弁士がごくりとつばを飲みます→鶏だけになった荷馬車→渋い表情の興行主。
愁嘆が回避され、倫理が浮いてしまいます。非道なのに、なんとも言えない余韻が残るのです。これはあざやかです。

生死が表裏になっていると言うより、すべてが死をテーマにしています。アイロニカルですが教訓はありません。でも詩情はあります。ユーモアもあります。残酷とは言えますが、それを使うと退屈な映画もぞろぞろ連れてくるので、使いたくないところです。だいいち残酷を謳う映画を凌駕する臨場感があります。アルゴドネスの章では、矢が見たこともないほどリアルに人を射ます。バスターの早撃ちは華麗で、金の谷は美しく、早とちりの幌馬車の列は壮観、遺骸は幻想的です。
コーエン兄弟が辿り着いた境地を観た気がしました。

古い小説を脚本にしたそうですが、私が思い浮かべたのアンブローズビアスのアウルクリーク橋の一事件です。どの章にも、まさにあの死とストイシズムが横溢していました。

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津次郎