「オスカー受賞のスピーチはまんまゆりあん」女王陛下のお気に入り うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)
オスカー受賞のスピーチはまんまゆりあん
エマ・ストーンの没落からの立身出世を軸にした物語はとても分かりやすく、それぞれのキャラクターも際立って描き込んである。このジャンルの映画としては非常にとっつきやすい。
なかでも女王陛下の天真爛漫な無能ぶり、そして不健康な振る舞いはとても演技とは思えない自然さ。オリビア・コールマンがオスカーをはじめ、各映画賞を総なめしたのもうなずける。体調が悪く、徐々に身体が壊れていくさまは順撮りだったらともかく、スケジュールによっては逆転することもあったろうに、そこに本当に女王がいるようにしか思えない存在感を醸していた。
逆にエマの振る舞いは、時に不思議な印象を伴う。心の底から清廉な気持ちを持つでもなく、時に性的なサービスもいとわない狡猾さ。それでいて嫌われ役にならないのは、キャラクターの芯の強さと、王宮という特殊な環境のなせる効果なのだろう。女優魂を見せるようなセックス描写は、コメディとエロティシズムの境界線を器用に渡り歩く。頑張りの割に、賞レースでノミネートされるものの、受賞をことごとく逃し、意外に評価は低い。
カメラワークも独特で、スクエアな印象を与えるよう、特殊なズームとカメラのスイングで工夫していたり、文字の配列を本のように並べたりして、見たことのない画作りをしている。豪華なセットや衣装はもちろん、並んでいる料理や菓子、調度品に至るまで、映画の世界観にこだわって配置されている。
敢えて必要を感じなかったのは、ちょっとあけすけなセックスの描写で、レズビアンのオーガズムをはじめ、毒のように散りばめてある。これがなければレイティングで損をすることもなかったろうに、片乳を放り出して眠るエマ・ストーン、手コキをするエマ・ストーンなど、とてもリビングで家族そろって見られるような映画ではない。
そして、音楽がバロックで統一されているのも、こだわりを通り越して逆効果。果たして映画の効果としてのBGなのか、本当に宮中音楽家が奏でている状況音なのか、すぐには理解できない。実際に、女王が癇癪を起して、庭で演奏をするバンド弦楽を怒鳴りつけ、追い出すシーンがある。王宮に音楽が奏でられていた状況が日常にあったということであり、例えば官能的な夫婦の初夜の様子や、勇ましい乗馬のシーンなんか、音楽がかすんでいる。
監督のこだわりは各所に感じることができるが、映画としての見やすさはちょっと不親切。そこが楽しめるかどうかの境界線になるだろう。