「重たい重たい、重たい愛憎を描く一本」女王陛下のお気に入り talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
重たい重たい、重たい愛憎を描く一本
邦題から受ける、どことなく穏やかそう、楽しそうなイメージとは裏腹に、とてもとても、とてもとても、とても重たい愛憎劇の一本でした。
本作は、別作品『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』が素晴らしかったヨルゴス・ランティモス監督の手になる作品ということで観ることにした作品でしたけれども。
どうやら、家族や疑似家族(?)という、比較的近しい人々の愛憎を描くことを得意とする監督さんのようです。
どなただったか、ハンドルネームを失念してしまって、この作品に気づかせてもらったことにお礼が言えないのですけれども。
さすかに、海千山千の猛者揃い(?)の映画.comレビュアーをして「優れた愛憎劇」と言わしめるだけのことはあったとも思います。
本作についても、将来の国の命運を賭けた国家の維持(植民地の版図確保)のためには避けることができず、しかし、その戦費調達のための増税策に反対も声高に囁(ささや)かれる戦争のさなかにあって、その上に病にも押されがちな女王の双肩にのしかかる重圧は並大抵ではなかったことでしょう。
その一方で、没落貴族であるアビゲイルにしても、これからの「食い扶持」を確保するために宮廷に食い込むことをしくじる訳にはいかない。
そして、女王付の女官には、侍官としての面子・立場がある。
三者の重圧が三方向からまったく互角に衝突して、メリメリと軋(きし)む音が、画面の向こうから聞こえてきそうな気すらします。
そして、その圧力に押し負けて、いわば遠くまで弾き飛ばされてしまった(国外追放)現職の女王付女官のサラ。
本作は、別作品『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』での演技が、とてととても素晴らしかったエマ・ストーンの出演作品でということでも注目していましたが、期待を裏切らない重厚な彼女の演技にも、十二分に得心のいく、一本でした。
佳作であったと思います。評論子は。
<映画のことば>
私の心には「信頼」という発想がないし、黙って潰されはしない。
それは、あなたに習ったこと。
私を許せば、幸せに暮らせる。
(追記)
当たり前といえば、当たり前なのですけれども。エマ・ストーンにしても、別作品『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』で演じていた信念に燃えてはいても、どこか清々しかった、主人公を演じた彼女とも思えないほどでした。
こうも人格までもが変わってしまったかのように「役に入り込める」なんて、さすがはプロの女優さんというものです。御三方とも。
その「底力」を見せつけられた一本であり、映画というとものを見続けて行くことの「楽しさ」「奥深さ」ということにも思いが至った一本になりました。